≪医山夜話≫ (44)

帯状疱疹

帯状疱疹の邪気は、まるで泥棒のようなものです。突然痛みの症状が現れますが、皮膚に発疹が出るまで、なかなかその正体を突き止めることができません。病状が進み、角膜を侵すまでに至ると角膜潰瘍になり、失明することさえあります。従って、早期の治療が不可欠となります。漢方医学ではこの病気を「蛇纏(じゃせん:蛇のように体に巻きつく)」、或いは「火丹(かたん:火のように赤い発疹)」と称します。

 ある日、肩や首、肘などに焼けるような痛みがあると訴える女性患者が私の診療所に来ました。痛むという部位を検診しましたが、外見からは何の異常も見えず、肩関節の運動機能にも異常はありませんでした。しかし、彼女は非常につらそうで、微熱も出ています。当時は風邪が流行っていたので、彼女も風邪のせいで身体のあちこちに痛みが出ているのだと私は思っていました。

 しかし、鍼を刺した瞬間、彼女の右肩に虫に刺されたような濃い赤色のできものがあることに気づきました。「いつ虫に刺されたのですか?」と聞くと、彼女は「刺された覚えはありません」と言いました。当時は真冬の時期で、虫に刺されたとは考えにくい状況でした。注意深く観察すると、一つの小さな水ぶくれを発見しました。彼女が訴える症状を考えると、こいつ(邪気)は、きっとあの「泥棒」だ、と私は確信しました。

 この「泥棒」を退治するのは私の得意分野です。私は彼女にまっすぐな姿勢で座ってもらい、一本の細い糸で彼女の頭回りのサイズを測りました。その長さの結び目にしるしを作り、この糸で彼女の首回りを一周して、結び目を背骨に合わせて軽く引っ張ると、ちょうどその結び目が当たるところにピンク色の薄い黄色を帯びた小さな発疹がありました。これがつまり「泥棒の巣」で、また「クモの巣」とも称します。ここに米粒ぐらいのお灸を一荘だけすえました。

 そのまま家に帰った彼女は2時間後に電話をかけてきて、その時、痛みはすでに大分軽減し、風邪のような症状もなくなったと言いました。これは「泥棒の巣」が完全につぶされたというしるしです。 

(翻訳編集・陳櫻華)