【ほっこり池】平安びとの桜

 花のごと世の常ならば過ぐしてし昔はまたも帰り来なまし(古今集)

 よみ人しらずの歌です。「毎年咲く花のように、この世が常に変わらないものであったなら、過ぎ去った昔もまた帰ってくるのだろうに」。千年前の日本人が、令和の私たちと同じ心情を歌にしています。

 文学史では平安時代を中古といいますが、中古の詩歌にでてくる「花」はほとんどが桜を指します。桜以外の花はどうかというと、梅や菊など種類が記されているか、「花の香」のように香りに美の力点が置かれていたら「これは桜ではなく梅だな」と判断できます。

 日本で最も多いソメイヨシノは江戸末期から明治にかけてつくられた品種ですので、平安歌人が見ていたのはヤマザクラなどの古種だったでしょう。

 日本の桜が今年も咲きます。コロナ対策を十分にして、静かに楽しみたいものですね。

(慧)