【ほっこり池】花は咲く

 花が咲く、ではありません。「花は咲く」のです。

 大宇宙の不変性の象徴です。それを最も身近な言葉で表現したとき、「人間のすべてを超越して、花は咲く」という究極の日本語が選ばれたものと推察します。例えるなら、原爆の猛火に焼かれ、数十年は草木も生えないと言われた広島で、大地を割って力強く芽を出した青い麦のようなものです。

 もちろん未曽有の大災害でした。多くの愛する人が目の前で波に消え、あとに無数の悲しみが残されました。その悲しみは、たとえ10年を経ても癒えるものではありません。

 ただ、そうした人間の悲哀とは無関係に、あるいは見事といってよいほど無頓着に、春になると「花は咲く」のです。なんという力強さでしょう。しかも花は美しい。巨大すぎる悲しみのため一時的に硬化した人間の心を、花は必ず和らげてくれます。

(慧)