ワクチンをめぐって WHOに集中する権力と、国家主権の後退

米国とWHOが進める「パンデミック条約」、専門家らが警鐘

2023/02/22
更新: 2023/02/23

バイデン政権は、世界保健機関 (WHO) との間に法的拘束力のある協定を結ぶための準備を進めている。その協定によって、WHOには権限が付与され、パンデミック時に米国の政策を決定できるようになる。

昨年9月、米保健福祉省(HHS)のグザビエ・ベセラ長官は、WHOのテドロス事務局長とともに、「米国-WHO間の戦略対話」を発表した。新型コロナパンデミックへのWHOの対応をめぐって、批判が広がっているなかでの発表だった。「米政府とWHOの長年のパートナーシップを最大限に活用し、米国民を含む世界中のすべての人々の健康を保護・促進するためのプラットフォームを提供する」としていた。

今月1日、上記のような一連の議論を経て、パンデミック条約の「ゼロドラフト(基礎草案)」が発表された。WHOは現在、194の全加盟国からの承認を求めている。今月27日には、WHOの政府間交渉機関(INB)の会合が予定されており、最終的な条件を詰め、全加盟国が署名することになる。

この草案では、「世界を公平に」という旗印のもと、グローバル・パンデミックの緊急事態を宣言・管理する権限が、WHOに与えられている。ひとたび健康上の緊急事態が宣言されれば、米国を含むすべての加盟国は、治療法、ロックダウンやワクチン義務化などの政府規制、グローバルサプライチェーンの運用、国民の監視などに関して、WHOに服従することになる。

一元化されるパンデミック対応

元WHO職員で公衆衛生医のデイヴィット・ベル氏が、大紀元の取材に応じた。ベル氏はWHO職員として、感染症ポリシーを専門としていたという。「彼らは、ワクチンと薬物治療に基づく一元化された対応を望んでおり、国民に対する支配という点で、非常に抑圧的な対応を望んでいる。彼らは、何が健康上の緊急事態に当たるかを決定することができる。そして、監視機構を設置して、宣言すべき緊急事態の潜在性を確認している」

WHOのパンデミック条約は、世界保健総会 (WHA) と連動した取り組みの一環であり、加盟国の法律に取って代わる、新たなグローバル・パンデミック規制の策定を目指している。WHAはWHOの規則を制定する意思決定機関であり、加盟国の代表者らで構成されている。

イリノイ大学で国際法を専門とするフランシス・ボイル教授は、大紀元に次のように語っている。「WHAとWHOの取り組みは、どちらも致命的に危険だ。どちらかが、あるいは両方が、世界規模の医療警察国家を立ち上げ、WHOの支配下に、特にテドロス事務局長の支配下に置かれることになるだろう。もし、それらの取り組みが進めば、テドロス事務局長やその後継者は、あなたの身近な医者に手を回して、命令を下せるようになる」

また、医師のメリル・ナス氏は、大紀元に対し次のように語っている。「もし、これらの規則が現在の草案のまま通過すれば、WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言した際に、私は医師として、患者に何を与えて良くて、何を与えてはいけないかを指示されることになる。そうなれば、レムデシビルは投与できても、ヒドロキシクロロキンやイベルメクチンは投与できなくなる。また、彼らは公平性を信じていると言うが、彼らの言う公平性とは、世界中のあらゆる人々がワクチンを接種することを意味している。人々がそれを必要としているかどうか、既に免疫を持っているかどうかは関係ない。」

医療においても、この協定の影響は懸念される。加盟国は、「規格外の、あるいは偽造されたパンデミック関連製品の監視・規制」が要求されることになる。これまで発表されたWHOとバイデン政権の方針に基づくと、おそらく、この協定によって、国民は新たに開発されたワクチンの接種を強制される一方で、医師はワクチン以外の治療法や医薬品の処方を阻止されると考えられる。

国際機関に訴え政策推進、議会の反対を回避

この協定をめぐって、大きな疑問が浮かび上がっている。はたして、バイデン政権は、憲法上必要とされる米上院の同意なしに、条約を米国に押し付けることができるのだろうか。ゼロドラフトでは、国家間の条約は国際法に基づき各国議会が批准しなければならないとしており、国民の同意権が尊重されている。しかしまた、草案の中には、WHOの代表者が署名した時点で協定は「暫定的」に発効する、という条項も含まれている。そうなれば、議会による批准を経ずに、加盟国に対して法的拘束力を持つことになる。

「この条項を起草した者は、私と同じように米国の憲法と国際法を知った上で、わざと起草した。それは、署名後すぐに暫定的に発効することで、上院に条約に対する助言と同意を行う権限を持たせないようにするためだ」とボイル教授は述べる。

「バイデン政権は、『これは大統領が議会の承認なしに勝手に締結できる国際的な行政協定であり、合衆国内のすべての州、地方の公選職員、知事、司法長官、衛生当局の職員に対し法的拘束力を持つ』という立場をとるだろう 」

実際、このような事態において、バイデン政権を後押しする可能性がある最高裁判決はいくつかある。「ミズーリ対ホランド事件」で、最高裁は、州法よりも条約を優先するとの判決を下した。「合衆国対ベルモント事件」では、上院の同意のない行政協定でも、条約の効力によって法的拘束力を持ち得るとした。

また、このWHOのパンデミック協定は、最近バイデン政権が署名したOECDのグローバル課税協定とも類似点がある。この協定に対し、野党共和党からは、立法承認への道筋がないとの指摘が挙がっている。OECD協定には、米国側が批准しない場合、外国が米国企業を罰することができるという条項が組み込まれている。

つまり、いずれの場合においても、政権当局者は、米国の有権者が拒否した政策を、国際機関に訴えて押し通そうとしているのだ。 合衆国憲法の下では、医療は連邦政府の管轄ではなく、州の管轄だ。しかし、国民にワクチン接種とマスク着用を義務付けたいバイデン政権にとって、裁判所が連邦機関には権限がないと判断した時点で、その規定は望まぬ障碍となったのだ。

「WHOに規制や条約を持ち込むことで、国内の反対を回避したのだ」とボイル教授は語った。

「政府全体・社会全体のアプローチ」へ

パンデミック条約のゼロドラフトによると、加盟国は国内の規制当局の能力を強化し、国際・地域レベルでの規制要件の調和を高めることに合意することになる。また、中央政府、地方自治体、民間企業を含む、「政府全体・社会全体のアプローチ」を国家レベルで実施するとしている。

さらに草案では、この新たな協定を必要とする理由として、「新型コロナの大流行に対して、国際社会が連帯と公平性を示すことにおいて、壊滅的な失敗をした」ことを指摘している。

また、「パンデミックの備えと対応に関する独立パネル」からの報告書も、WHOのパフォーマンスを、誤った判断による「毒性カクテル」と見なしている。それは「無数の失敗、相互不信、遅延によるものである」と、共同議長のエレン・ジョンソン・サーリーフ氏はBBCに語った。しかし、その報告書が提案した解決策も、地域の自治や多様な意思決定に重きを置くのではなく、むしろWHOの中央集権化、権力拡大、資金拡大を示唆していた。

気候変動や人種差別も「公衆衛生の緊急事態」?

WHOのパンデミック協定は、加盟国に対して「ワンヘルス・サーベイランス」の実施を求めている。「ワンヘルス」と言う概念は、国連、CDC、世界銀行、その他の国際機関によって受け入れられている。

「そもそもこの言葉は、人間と動物の健康を結びつけて捉え、分野を横断して健康を改善しようとする取り組みのことを意味していた」と公衆衛生医のベル氏は語る。

「しかし、この言葉は乗っ取られた。今では、『人間のあらゆる活動や、生物圏内のあらゆる問題が健康に影響を及ぼすので、それらは公衆衛生の権限の範囲内である』ということを主張するために使用されている。つまり、気候変動や人種差別、漁業管理も公衆衛生に含まれると見なされるし、炭素排出への対処は健康問題、あるいは『健康上の緊急事態』だと主張できてしまう」

WHOのゼロドラフトでは、「ワンヘルス・サーベイランス」に関して、今後の草案でその定義を練り直すことが示唆されている。しかし、最終的にその言葉がどのような意味を持つにせよ、加盟国はそれに投資し、それを実装・強化していかなければならないようだ。昨年9月、世界銀行は、特に「ワンヘルス・サーベイランス」に資金を提供するための新たな金融仲介基金(FIF)を承認している。

公式見解の推進と「誤情報」への対応

また、加盟国は、パンデミック関連の情報に関して、公式見解とされた筋書きを支持することに同意している。具体的には、「定期的にソーシャルリスニングを行い、誤情報の発生率と統計データを特定するための分析を行う」「誤情報、偽情報、偽ニュースに対抗するために、一般市民のためのコミュニケーション・メッセージ戦略を設計し、市民からの信頼を強化する」などとある。

これは、前ホワイトハウス報道官のジェン・サキ氏が述べていた通りだ。「(バイデン政権は、)最新の筋書きが公衆衛生にとって危険であるとソーシャルメディア企業が認識していることを確認し、ソーシャルメディアポリシーの施行についてより良く理解するために関与する」とサキ氏は述べていた。また、国連事務次長のメリッサ・フレミング氏は、2022年の世界経済フォーラムの 「偽情報への取り組み」 に関するパネルディスカッションで、「我々は科学を所有しており、世界はそれを知るべきだと考えている」と述べたが、まさにそういったことが進行している。

新型コロナパンデミック時には、ロックダウンや学校閉鎖、マスク着用など、公式見解とされた筋書きが支持された。しかし、これらにはいずれもウイルス拡散を食い止める効果はなく、かえって公衆衛生に害を与えることが証明されている。2020年、90万人を超える医師、疫学者、公衆衛生学者のグループが共同で「グレートバリントン宣言」に署名し、「現行のコロナ政策が心身の健康に与える悪影響についての重大な懸念」を表明した。しかし、この宣言は危険な誤報として揶揄され、ソーシャルメディアでは検閲された。

公衆衛生医のベル氏は次のように述べている。「彼らが潰した見解は、従来の正統的な公衆衛生だった。2019年まで、公衆衛生のガイドラインには、国境の長期閉鎖や店舗の閉鎖などは、特に低所得者にとって有害であり、数週間以上は行うべきではないと明確に記載されていた」

「ロックダウンを推し進めた人々にとって、コロナ対策として推奨していたことが極めて有害であり、その害が利益を上回っていることははっきりしていた。彼らは以前からそのことを書いていたのだから。人々に貧しい生活を強いれば寿命が縮むというのは、前から言われていた。何かが彼らの考えを劇的に変えたのだとしても、それは証拠として残らないので、既得権益からの圧力だったとしか考えられない」

1月に世界経済フォーラムで発表された調査では、パンデミック以降、政府に対する国民の信頼が急落していることが判明したが、出席者は信頼低下の理由を説明するのに窮していた。その代わり、「不信感を払拭する(Disrupting Distrust)」と題されたパネルディスカッションでは、中心的な筋書きに異議を唱える不正なニュースソースとの戦いに焦点が当てられた。

再びWHO脱退への動きも

2020年7月、米国のトランプ前大統領はWHOから脱退した。トランプ氏は、WHOのパンデミック対応における不手際や、中国共産党との関係を引き合いに出し、米国からの年間約5億ドルの資金提供も停止した。

これに対し、当時大統領候補だったバイデン氏は「大統領に就任したら、就任初日にWHOに再加盟し、世界の舞台でのリーダーシップを回復する」と誓った。バイデン氏はその誓いを果たしただけでなく、パンデミック協定の交渉という、さらなる大きな一歩を踏み出している。

今、野党共和党の議員らは、米国のWHO脱退に向けた取り組みを復活させようとしている。1月12日、下院共和党は「WHOに税金を使わない法案(No Taxpayer Funding for the World Health Organization Act)」を提出し、16人の下院議員がこれを支持した。

この法案の発起人であるチップ・ロイ下院議員は次のように述べている。「中国共産党に仕える腐敗した世界保健機関に何百万ドルもの税金を注ぎ込むことは、記録的な高インフレに苦しむ勤勉な米国の家庭、そしてコロナの大流行によって生活を破壊されたすべての人々への平手打ちである。WHOは…新型コロナの初期に中国のリーダーシップを賞賛したが、新型コロナの蔓延について中国共産党の責任を問うことは何もしていない」

ロイ議員の広報担当者は、「パンデミック協定は、WHOへの資金提供を拒否するもう1つの理由だ」と大紀元に述べた。

「人権」をめぐる二つ観点

パンデミック条約のゼロドラフトによれば、国家主権は依然として優先されるものの、制限を受けるとされている。「国家は、国際連合憲章と国際法の原則に従って、公衆衛生への取り組みを決定し管理する権利を有する。ただし、その管轄または管理下にある活動が、自国民や他国に損害を与えないことを条件とする」と草案は述べている。

協定では、人権も重視されている。「検疫や隔離など、移動の自由が制限された状態で生活する人々が、薬物治療や医療サービス、その他の必需品や諸々の権利を十分に享受できること」が義務づけられている。この協定では、人権を「健康の社会的、環境的、文化的、政治的、経済的決定要因に対する、断固たる行動によってなされる健康の公平性」としている。

このコンセプトに沿って、オーストリアなどの国では、新型コロナワクチンの接種拒否が犯罪とされるまでに至った。米国内では、ニューヨーク市などが公共スペースへのアクセスにワクチンパスポートを義務付け、住民をワクチン接種済みの特権階級とワクチン未接種の第二階級に分けた。

しかし、人権を集団的健康という観点ではなく、個人の権利としてとらえる見方もある。そこには、個人主権、個人が自ら選択する能力、自分に影響を与える医療上の決定に対して発言する権利、言論の自由、移動と集会の自由などが含まれる。

公衆衛生医のベル氏は、次のように語っている。「ファシズム、国家社会主義、共産主義といった国家統制のイデオロギーが台頭した第二次世界大戦を経て、個人が主権者である、という基本的な理解がなければならないことが認識された」

「戦後の人権宣言では、危機の時代にあっても、人は生まれながらにして不可侵の権利を持ち、平等であるということが強調されている。しかし、それが骨抜きにされており、なかったことにされている」

「この問題は、私たちがどのような社会で生きていきたいのかという、もっともっと大きな問題だと思う。平等を信じるのか、それとも少数の人間が頂点に立って社会を支配していく封建的なシステムを信じるのか。それが私たちが進もうとしている方向だ」

本記事に関して、WHO、米保健福祉省、世界銀行に問い合わせたが、回答はなかった。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。