上流夫人になった召使い

中国・清王朝の頃、陶澍(とうじゅ)(1778‐1839)という官僚がいた。彼は道光帝から信任を得て地方行政の改革を進め、数々の功績を残した人物である。彼の妻は身分の低い召使いだったが、後に一品夫人(上流の夫人)になったというエピソードがある。

貧しい家庭で育った陶澍には、両親が決めた許嫁がいた。相手は、両親の知人である黄氏の娘だった。

ある日、呉氏という裕福な家の主が、美しいと評判の黄氏の娘を気に入った。たくさんの贈り物を黄氏の家に届け、自分の息子との縁談を持ちかけた。黄氏とその娘は、呉氏の申し出に狂喜し、陶澍との婚約を破棄しようとした。しかし、陶澍の両親は頑として首を縦に振らなかった。

黄氏が考えあぐねていると、黄氏の家に仕える召使いが言った。「自分が代わりに嫁ぎます」

陶澍も同意したので、召使いはさっそく陶澍の家に嫁ぐことになった。

結婚後、陶澍の妻は夫によく仕えた。陶澍も徐々に功績が認められ、高い官職に就くようになった。彼の妻は皇帝から「一品夫人」という称号を与えられ、高貴な身分を持つようになった。

一方、裕福な呉氏の家に嫁いだ黄氏の娘は、状況が一変した。呉氏は他人の田畑を横取りして恨みを買い、息子が殺された。未亡人となった黄氏の娘に残された財産も、呉氏の家の主が亡くなると、親族たちに奪われてしまった。

陶澍は人づてに黄氏の娘の境遇を聞いた。不憫に思った陶澍は、銀五十両を彼女のもとへ送った。

黄氏の娘は昔のことを思い出し、後悔の念にかられて涙をこぼした。彼女はもらった銀貨を大切に保管していたが、不幸にも泥棒に盗まれてしまった。絶望した黄氏の娘は、自ら命を絶ったという。

(翻訳・編集/唐玉)