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【物語】殺生の罪を知る、心優しき兵法家が編み出した「天下泰平の活人剣」

 【大紀元日本6月28日】今から300年以上前、日本の近畿地方にある兵法家に「剣鬼」の異名を採る者がいた。臣が君主を、弟が兄を、子が親を殺める下克上の戦乱の世であったため、自分の子供、特に男子には「斬って、斬って、斬り捲れ」と凄まじいほどの先手必勝を教え、自身も戦場での初陣を誇りとしていた。

 そんな男の息子の一人に、非常に心優しい男児がいた。男児は、家の道場に迷い込んだ小さな虫を見つけては外に逃がしていたが、そんな様子を見て父親は苦々しい焦燥感に駆られ、「かかってこい!」と恫喝しては、竹刀を男児に渡し、申し合いを日常としていた。冷酷非情でなければ戦国の世は活きてゆけないと思ったからである。しかし、男児は厳しく打たれても決して打ち返そうとせず、父親が「なぜ打ち込んでこない!?」と怒鳴っても黙っているだけであった。

 そんな夕刻、男児がさんざんに小手を打たれ道場の裏でさめざめと泣いていると母親が駆け寄りこう言った「お母さんだけは、おまえの優しい気持ちが分かります。人が斬れないことは全然恥ずかしいことではありませんよ。むしろ人間として素晴らしいことですよ。いずれ太平の世が来ます。それまで我慢しましょうね…」。

 男児はそんな母親の言葉に救われたような気がしたが、「現実には世は戦国であり、人を斬らねば活きてゆけず、自分が殺される…しかし、人は斬りたくない…一人も斬りたくはない」と自問自答する毎日を送っていた。月日は流れ、男児も元服し、答えを見つけるために父親にことわり、一人旅の修行に出ることにした。

 野山で剣を振り、滝に打たれても悄然として答えは見つからない。そんなある日、山中で野宿をしていると、山賊が眼前に現れた。「おい、若いの!!金と食糧を置いてゆけ、でないと斬るぞ、斬って奪うまでさ」と言いつつ、すでに長刀を構えて男の頭に打ち込まんとしている。「待て!私は人を斬りたくない!斬りたくないのだ」そう言うと、腰に佩いた脇差を地面に捨ててしまった。山賊は舌なめずりすると、「お前が俺を斬りたくなくても、俺はお前を斬りたい!なぜなら金が要るからだ」と言うと渾身の気合で剣を男の眉間目掛けて振り下ろした。瞬間、男は両掌で白刃を受けきり、山賊はあまりの出来事に目を奪われ驚愕し「天狗が出た…」と言ったきり森の中へ消えていった。

 男はこの「無刃取り」を編み出してから、一度も立会いに敗れることがなくなり、相手は白刃を素手で取られると全く戦意を喪失した。やがてこの神業は、天下を統一した天下人の知るところとなり、「剣術指南役」としてその活人剣の精神が太平の世の政事に生かされた。

 一方、「剣鬼」の異名をとった父親は、晩年自らが斬った「亡霊」を白昼から見るようになり、精神が錯乱して発狂死したという。

 (06/06/28 09:17)  





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