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インタビュー:世界経済の悪化リスクに警戒感、8月利上げは見送りか=平野・元日銀理事

 元日銀理事(国際担当)でトヨタファイナンシャルサービス・エグゼクティブバイスプレジデントの平野英治氏は21日、ロイターのインタビューに応じ、米サブプライムローン(信用度の低い借り手向け住宅融資)問題に端を発した市場の混乱は、世界全体を巻き込んだ危機につながる可能性は極めて低いと見通す一方で、米国の実体経済に及ぼす影響では「来年にかけて、住宅市場を起点とする経済全体の悪化リスクを注視しなければならない状況になっている」と警告した。

 日本の金融政策運営については、22日、23日に迫る日銀金融政策決定会合では「状況を見極めるのが普通の対応ではないか」と利上げ見送りを示唆した。

 <サブプライム問題、世界全体巻き込む危機は回避か>

 米サブプライム問題から拡大した金融資本市場の動揺について、平野氏は「思った以上にショックが広がったとの印象を持っているが、これは事態の全貌が見えないことに対する不安心理が急激に増幅され、振り子が振れ過ぎの面があったと思う。中央銀行等の機動的な対応もあって、不安定さが残るものの、遅かれ早かれ落ち着きを取り戻してくると見ている」と見通し、「市場の混乱がさらに大きく広がり、大きな信用収縮や実体経済に悪影響を及ぼすとは全くみていない」とした。

 一方、アジア通貨危機のようなグローバルマーケットを通じた危機につながる可能性についても「極めて小さい」と指摘。「企業も金融機関のバランスシートは大幅に改善しており、資本の状況は良好。今回のサブプライム問題に限って言えば、証券化でリスクは全体として分散されており、1点にリスクが大きく集中している状況ではない。大きく損害を被むったファンドなどが閉鎖に追い込まれる可能性はあるかもしれないが、それが世界の金融システムを巻き込んだ危機につながる性格のものではないだろう」と述べた。

 また、アジア通貨危機の経験を経て新興市場国の体質も強化され「新興国の一角から問題が広がることもないだろう。世界全体を巻き込んだ危機につながる可能性は極めて小さい」とした。 

 <米経済、住宅市場を起点とする経済悪化リスクを注視>

 一方で、サブプライム市場のデフォルト率は最近では20%近くまで上昇。来年にかけてさらに上昇することが予想されることや、米住宅価格が下がり始めていることから、長い目でみると「住宅市場を起点とする経済全体の悪化のリスクは、来年にかけてより注視しなければならない状況になっているのではないか」と警戒した。

 米当局は市場環境の悪化・混乱収拾のため、17日に臨時の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、公定歩合を0.5%に引き下げることを決めた。その際の声明で「景気下振れリスクがかなり高まった」と明記し、今後の景気情勢への警戒感を初めて公式に認めた。

 米国経済のソフトランディングシナリオに狂いが生じているとも読めなくはないが、平野氏は「(米当局が)住宅市場を起点とする経済の調整が、意外と深く長くなるかもしれないなというリスクをみているのは事実」と述べ、景気悪化リスクを警戒した。

 <米金融政策判断は、インフレ懸念とのバランス> 

 ただ、今後の米金融政策判断ではインフレ懸念が残っている点を注視。「(米当局は)住宅市場の調整が長くなるリスクがあるからと言って、いわばインフレを抑えるという政策目的を犠牲にして調整を緩和するということはやりたくないということだろう」と指摘。「インフレ懸念が残る間はバランスをみながらやっていくとのメッセージを送った」とした。

 市場の混乱回避に向け米当局が「必要に応じて必要な対応を取るという強いメッセージをアクションと声明で示す」一方で、FFレート引き下げまでに至らなかった背景について「景気とインフレの先行きへの影響が必ずしも判然としないなかで、マーケットの動揺は鎮めておかなければならないという選択のなかで、公定歩合は下げるがFFレートは据え置く選択をとりあえずしたということではないか」と分析した。

 <日銀の政策判断、霧が晴れれば9月利上げ環境整う可能性も> 

 日本経済の先行きについては、成長パターンが外需依存型になっていることから、サブプライムローン問題の帰結と今後の米国経済の帰趨次第としたが、展望リポートで示されている「一番がい然性の高いシナリオが大きく狂っているとは思わない」と述べた。 

 ただ、問題の影響と波及の見極めの難しさから、今後の金融政策判断は「非常に難しい」と指摘。「日本経済が底堅さを維持するというシナリオが保てるのであれば、粛々と金利の正常化をやるべきだと思う。ただ、今下振れリスクが見え始め、今後どうなるかわからないときには、それを見極めるのが先決だ」とし、8月については「状況を見極めるのが普通の対応ではないか」と述べ利上げ見送りを示唆した。 

 8月に利上げが見送られた場合、市場では、次の利上げ時期はサブプライム問題の落ち着きや影響度合いの見極め、日銀短観を踏まえて10月以降との観測が浮上している。

 平野氏は今後の金融政策判断では「米国中心に世界経済がこの先どういう足取りになるかという読み込みが最大のポイントになる」としたが、9月利上げも選択肢としてあるかとの質問には「それはあるだろう。金融政策とはそういうものだ。特に日本のように超低金利で走っており、来年にかけて経済が底堅く推移するのであれば粛々と上げればよいと思う。今、わからない要素が出てきて、見極めの時間を要するということで、仮にこの1カ月で、霧が晴れるように、世界の経済の先行きのピクチャーがはっきりしてくれば、それで日本銀行にも金利を上げる環境が整うかもしれない」と期待感を込めた。

[東京 21日 ロイター]

 (07/08/22 09:51)  





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