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【文化論エッセイ】鬼手仏心

文・武蔵

 【大紀元日本11月19日】仏教の古い言葉に「鬼手仏心」というものがある。つまりやっていることは凄惨だが、心に仏、平たく言えば衆生に思いやりがあるということだ。

 この言葉はかつて腕のいい外科医に譬えられていた。即ち、手術台の上には、摘出した臓物が溢れ、血液がダラダラと流されてはいるが、患者の腹中の病巣部をそっくり摘出することによって全快するというものだ。

 日本にもかつてこのような人が大勢いた。私自身は昭和三十年代の生まれだが、社会に出た頃には、まだ「戦中派」というグループの人たちがいて、良くも悪くも「鉄砲玉の下をくぐってきた」迫力ある「怖いおじさんたち」が社会で現役として活躍していたものだ。

 話は変わるが、私自身の幼少期、即ち昭和三十年代後半から昭和四十年代前半、日本はまだ米国から独立して間もなく、貧しい状態であったが、粗相(そそう)をすると、隣の見ず知らずのオジサン、オバサンによく頭をこづかれたものだ。しかし、今はこれがなくなった。見ず知らずの子供の頭をこづくなど、現在の日本ではほとんど見られなくなった。

 話は、戦中派の人たちに戻る。この人たちはやることは荒っぽく、旧軍式の「無理へんに拳骨」みたいな訳の分らないところがあったが、海外の戦地で人一倍苦労して復員してきているので、恐ろしげであるが基本的には心は温かい人たちであった。

 これらの人たちは、日本に復員してきてからは、遮二無二働き、70年代からの高度成長期を支えるキーマンとして活躍してきたが、80年代後半から90年代初頭を境に順次定年退職して社会の一線から去って行った。すると、日本経済はバブルがはじけて、その経済的勢いは失墜した。考えてみれば、バブルというものも「プラザ合意」がどうのこうのと言っているが、こういった戦中派の人たちの最後の命の燃焼だったのかもしれない。

 これらの人たちが「弟子」として育成したのが、「団塊の世代」と言われる人たちだ。これらの人たちは、ちょうど昭和20年代の生まれだが、今のように手取り足取りマニュアルでどうのこうのという形で一人前になったのではなく、「仕事を見て、盗んで」大きくなった人たちなので、やはり職人気質で分かりにくい人たちだ。しかし、仕事がキッチリと早いので、家電メーカーや自動車メーカーなど職場にはなくてはならない存在となった。

 これらの弟子たちが、今年2007年を迎え大量退職する時代に入った。すると、食品表示偽装やら、年金の流用問題やら、いろいろと出てくる、出てくる。鬼が日本の社会から去れば去るほど、腐敗はいろいろな角度から生気してくるようだ。

 では、現在の国内で「鬼手仏心」の象徴的な存在とは、具体的にはどんな人物だろうか。スポーツ界では、野球代表監督の星野氏だろう。彼は、その鉄拳制裁で中日を、長らく低迷していた阪神を優勝に導いた。古くて新しい(?)日本のプロトタイプの指導者だ。

 政界ではどうだろうか。現在、社会保険庁でメスを振るっている舛添厚労相などその筆頭だろう。「腐敗した役人は、全員牢屋に入れる!」といきまいている同氏を見て、溜飲が下がる思いの国民も多数いるに違いない。

 現在の日本社会には、こういった「鬼手仏心」の指導者はごく少なくなった。それは、良くも悪くも「教育勅語」などで戦前の精神教育を受けた戦中派が社会の一線から去り、その弟子たちも去りつつあるからなのだが…。代わりに蔓延するのは「仏手鬼心」の輩たちだ。やることは手ぬるいが、心は鬼なのだ。こういった輩は、必ず社会に何らかの深刻な打撃を与える。

 2500年前の孔子は、「故きを温ねて、新しきを知れば、以って師と為るべし」と言った。現代は、ハイテク先端技術の時代で、やれインターネットだの光ファイバーだの「IT」「AI」などとかまびすしいが、よく過去数十年の経緯と現在の国内の状況を見てみると…現在、日本の社会各層に求められている指導者像というものは、案外こういった伝統的な古いタイプの人のような気がしてならない…。

 (07/11/19 11:09)  





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