恨みに報いるに徳を以ってす

 唐の時代太宗が皇帝だったころのお話です。

 宦官の魚朝恩(ぎょ ・ちょうおん)は、輝かしい戦績を持つ武将・郭子儀(かく・ しぎ)に嫉妬していました。魚氏は郭氏の悪口を言いふらし、ついには郭氏の先祖を掘り返してしまいました。

 先祖の墓を掘り返すというのは、相手にとって最大の侮辱です。朝廷では、郭氏が我を忘れて怒るだろうと皆が噂しました。しかし、戦場から戻った郭氏は、何事もなかったように振舞いました。太宗がこのことに言及すると、郭氏は皆の前で言いました。「私はずっと戦場にいましたが、人の墓を掘り返すことを阻止できなかったのは、自分の過失です。今回の事件は、自分への報いです。誰かが自分に難癖をつけたのではありません」。郭氏は、忍耐寛容のこころをもって朝廷内の争いを避けることにしたのです。

 しばらくして、郭氏は魚氏から招宴の知らせを受けました。郭氏を陥れるための宴かもしれないので、応じないようにと周りは言いました。しかし、郭氏は周りの反対を押し切って、わずかな家来を連れて宴に参加することにしました。

 郭氏を迎えた魚氏は、「付き添いと護衛が、こんなに少ないのか?」と驚きました。魚氏の部下は、郭氏が周りの人の進言を退け、宴にやってきたことを伝えました。魚氏は郭氏の寛容さに感動し、それまでの彼に対する嫌がらせと敵対心を恥じ入りるようになりました。「全く私を疑うこともしないとは・・・あなたはやはり、大人物です」と言うと、郭氏に深々と頭を下げ、それまでの無礼を詫びました。

 魚氏はその後、郭氏のために、朝廷内でいろいろと助力するようになりました。

(翻訳編集・豊山)