アングル:傷む米の地方経済、稼ぎ頭のシェールと農業が暗転

2020/06/21
更新: 2020/06/21

Laila Kearney Karl Plume

[ニューヨーク/シカゴ 12日 ロイター] – 新型コロナウイルスが初めて米国で確認された頃、ノースダコタ州は当初の予算を上回る資金を抱えるという恵まれた状況にあった。

だが同州はいま、財政赤字の拡大を食い止めるために広範囲にわたる州政府機関の予算削減を進めている。コロナウイルスによるパンデミック(世界的な大流行)が引き金となった記録的な石油価格の暴落、そしていまだに米中貿易紛争の余波に苦しむ州内農業の不振が原因だ。

ダグ・バーガム州知事は、エネルギー関連の歳入が急減する状況を「経済的アルマゲドン」と表現し、この事態をやり過ごすために、州政府機関に対し、来年度予算の5―15%削減に着手するよう要請した。

ノースダコタ州は、エネルギー産業・農業への依存度が最も高い州の1つである。ウイルスと貿易紛争が州の生命線である産業に与える打撃は、教育や統治機能、幹線道路サービスの縮小という形で、何年にもわたり州の予算に影響していく可能性がある。

ノースダコタ州のように全般的に収支均衡を維持し、ほとんど債務を負っていない州でさえ苦労しているのだから、コモディティ生産に依存している米国の他州にとっては、回復への道が遠いことが分かる。こうした州の多くは、新型コロナウイルスの襲来以前から、財政基盤が脆弱だったのである。

石油・小麦に関して国内トップクラスの生産量を誇るオクラホマ州では、両産業の不振により、13億6000万ドル(約1450億円)の財政赤字が生じると予想している。アラスカ州の信用格付けは引き下げられ、ニューメキシコ州、オクラホマ州の格付け見通しもネガティブになり、格下げの危機が迫っている。

ノースダコタ州行政管理予算局のジョー・モリセット局長は、「25年にわたって州財政の仕事をしているが、これほど大きく複雑な変化のある不安定な時期は初めてだ」と語る。

3月にはわずか2%だった同州の失業率は、4月には8.5%へと跳ね上がった。ノースダコタ州立大学のエコノミストらによれば、失業の増加により州の税収は半減する恐れがあり、また州の域内総生産(GDP)は1年以内に15%―25%低下し、過去10年で最も低い水準に近づくという。

トラブルの兆候は州内各所に現われている。比較的人口の多い州東部のトラック販売店では、買い手がほとんど見当たらないなか、ピカピカの新車が手付かずのまま並べられている。

全米自動車ディーラー協会の最新データによれば、2020年1―4月の自動車販売台数は、前年同期に比べ、中型―大型車で29%、より小型の車種でも4%減少している。

普段なら油田作業員で賑わう州内石油産出地域の長期滞在型ホテルも、ほぼ空室の状態が続いている。

同州ウィリストン地域商工会議所のレイチェル・リクター・ロードマン所長は、「このエネルギー産業の減速は、まさしく新型コロナウイルスとの関連で生じている。この地域のホテルの稼働率は70―80%だったのに、20%にまで落ちてしまった」

鉱産資源開発権の所有者の多くは、州内の石油・天然ガス生産からのロイヤルティ収入によって定年退職後の所得減少を補っているが、自らも開発権所有者で、ウィリストン・ベイズン・ロイヤルティ・オーナーズ・アソシエーションの会長を務めるボブ・スカーフォル氏によれば、1月に比べ、ロイヤルティの支払いは85%も減額されてしまったという。

「石油関連の収入で毎月の生計を立てている人間にとって、これほどの減額は非常に痛い。何を節約するか選択せざるをえなくなる。光熱費か、医薬品代か、食費か」とスカーフォル氏は言う。

ウィリストンは石油生産の中心地で、過去10年間で人口が2倍以上に増えた。この街のキッチン用品専門店「クックス・オン・メイン」では、パンデミックと石油価格低迷が続くなかで、高額なエスプレッソマシンやカトラリー類の売り上げが激減し、イースト、小麦粉、コーヒーといった食材が大きく伸びている。

「どの産業で働いているかに関わらず、誰もが何らかの悪影響を感じている」と同店のオーナー、アンジェラ・デマーススコーゲン氏は言う。

 

<減少する税収>

ノースダコタ州の税収において最大の比率を占めているのは石油生産部門だが、モリセット氏によれば、3月の同部門からの税収は、以前の約2億ドルに対して9500万ドルと半分以下に減少した。

基準価格が生産コストを割り込んだことを受けて、石油生産企業はすぐにノースダコタ州での生産を削減した。ノースダコタ州には全米で2番目に生産量の多いシェール油田があるが、テキサス州の巨大なシェール油田に比べれば採掘コストは高くなってしまう。

ノースダコタ州の税収全体のうち、石油・天然ガス生産からの税収が占める比率は53%と他のどの州よりも高く、米国の税収全体に占める比率1.73%に比べて大幅に高い。

石油・天然ガス生産部門からの税収は2年間で総額49億ドル規模の同州の予算に組み込まれ、半分は、エネルギー生産地域の学区や自治体に再配分される。だがこの状況では、配分される額は予算を下回ることになるだろう。

残りの半分は、一連の特定目的財源や一般財源に回される。大学から警察に至るまで、最も広い意味での州機関の日常的な運営に用いられる主力財源である。

 

<農業の不振>

ノースダコタ州のダグ・ゴーアリング農務長官によれば、同州最大の産業であり、州内の雇用の4分の1近くを直接・間接に担っている農業は、長引く不振に陥っている。農業部門はこの3年間、世界的な供給過剰による価格低下、農作物に被害を与える暴風雨、そして米中間の貿易紛争という相次ぐ危機に見舞われてきた。ノースダコタ産大豆の約3分の2は中国向けに輸出されているが、貿易紛争のため、2018年以来、輸出量は減少している。

州内の農家は支出を切り詰め、収穫した穀物は損失覚悟の価格で販売するのではなく、在庫を積み上げている。この春、トウモロコシ、大豆の州内在庫量は過去2番目に高い水準となった。

グランドフォークスで農業を営むポール・スプルール氏は、通常なら2─3年おきにトラクターや収穫用コンバインを買い替える。だが今年は買い替えを見送り、手持ちの車両を使い続けることにした。

「買い替えるような経済状況ではない」とスプルール氏は言う。「どうしても必要なものだけを購入し、購入したものを修理しながら使い続ける。今後は何も購入しないことになるだろう」

米中両国が暫定的な貿易協定に調印して5カ月、ノースダコタ州からの輸出は回復しているはずだった。だが、新型コロナウイルスや香港政策をめぐって中国との対立は再燃してしまった。

ミネアポリス地区連銀の調査によれば、農業系金融機関の82%はノースダコタ州の農家所得が前年より減少すると予想しており、同じく76%は農家による設備投資の削減を見込んでいる。

ノースダコタ州立大学の農業エコノミスト、フレイン・オルソン氏によれば、夏の終わりに収穫期が始まり、利益の出る価格で穀物を販売できない状況になれば、低迷の影響はさらに厳しい実感を伴うものになるという。

「今の価格水準では、農家が利益を得られる作物は1つか2つしかない。しかも、トウモロコシや大豆、小麦といった主要作物は含まれない」とオルソン氏は言う。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
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