焦点:フォンデアライエン次期EU委員長、域内対立で茨の道

2019/07/20
更新: 2019/07/20

[ブリュッセル 17日 ロイター] – 欧州連合(EU)の次期欧州委員長となるドイツのフォンデアライエン前国防相は、移民問題から税制、気候変動、法制度に至るまで、さまざまな問題で公約を掲げることで、辛うじて欧州議会の承認を確保した。EU28カ国の首脳らは多くの問題を巡って意見が対立しており、これらの約束を実行に移すことは、さらに困難な仕事となるだろう。

あるEU高官は「彼女はたくさんの約束をしたが、われわれが実行できるかどうかはまったくの未知数。野心を持つのは良いことだが、一部の問題が極めて難しいことは証明済みだ」と語る。

欧州議会の承認投票では、賛成票が過半数374を9票上回るにとどまった。環境対策強化や加盟国の公平性確保など、左派票獲得のためにフォンテアライエン氏が掲げた公約に反発し、同氏と同じ中道右派議員の一部が土壇場で反対に回ったとみられる。

中道右派票を失った代わり、ポーランド政権与党の右派政党「法と正義」など非主流会派の賛成を得て、なんとか過半数を超えた。

<対立>

各会派は賛成票の見返りとして、次期欧州委員長に相異なる要求を突き付けるとみられる。議会と同様分断しているEU閣僚理事会で、その実態が鮮明になりそうだ。

EUの主要な政策決定には全加盟国の賛成を要するものが多いため、閣僚理事会では賛否の分かれる問題の協議が行き詰まる傾向がある。

例えば2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量を差し引きゼロにする目標については、ポーランドとハンガリーを筆頭に東欧諸国が反旗を翻した。

フォンデアライエン氏は、石炭依存からの段階的脱却に際し、域内の富裕国が貧しい国を支援するための「移行基金」設立などを提案したが、これだけで東欧諸国を納得させられるかどうかは分からない。

気候変動対策の目標引き上げは、フランスなど多くの国の賛同を得ているのも確かだ。フランスはまた、ユーロ圏共通予算や預金保護制度の設立計画を含むフォンデアライエン氏の経済・社会政策にも共鳴している。しかしこれらの計画は、主に同氏の出身国ドイツの反発により棚上げされている。

フォンデアライエン氏はEU全域にわたる失業制度と最低賃金の導入も提案した。

こうした社会政策について別のEU高官は「非常に慎重を期すべき問題だ」と言う。「経済状況と社会構造は加盟国間で大きく異なる。これまで意見統一が難しかったのは、まさにそのためだ」

税制面でフォンデアライエン氏は、デジタル課税、共通法人税、巨大IT企業へのEU域内での課税確保などを約束したが、これらの問題もアイルランドやオランダその他の国々の反対で停滞している。

事態打開に向け、同氏は税制、外交政策、気候変動、エネルギー、社会問題の承認について、全会一致制から多数決への移行を望んでいる。

しかし別のEU高官は「皮肉なことに、多数決への移行でもEU諸国すべての賛成が必要になる。重要な問題で少数派に回るリスクを進んで引き受けようとする国はないだろう」と指摘する。

また、欧州委員会が独占する法案提出権を欧州議会にも与えるというフォンデアライエン氏の案を実行するには、EUの基本条約を変更する必要がある。批准に当たっては、台頭する欧州懐疑派と歩み寄らざるを得なくなるリスクがある。

各国の立場が厳しく対立したままの難民問題について、フォンデアライエン氏は協議再開を約束しているが、その方法は説明していない。

また、従来以上にすべての加盟国に民主主義の原則を尊重させるという同氏の姿勢は、ハンガリーとポーランドの怒りを買いそうだ。

ポーランド与党「法と正義」の報道官は17日ロイターに対し、次期欧州委員には全加盟国を平等に扱ってほしいと述べた。現在の欧州委員会が法の支配を巡ってポーランドに法的措置を講じたことについて、同国はこれまで繰り返し不満を表明している。

(Gabriela Baczynska記者)

Reuters
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