神韻交響楽団の音楽家

東洋音楽と文化をめぐる旅路 ホルン奏者ゲオルギ・ボーフ氏

神韻交響楽団の日本初公演が9月15日、東京オペラシティで開催される。大紀元は欧州出身の同交響楽団ホルン奏者、Georgi Boev氏にインタビューした。神韻芸術団との出会いや法輪功修煉が、同氏の人生観と音楽観にどのような影響を与えたのだろうか。

同氏はこれまでずっと、数ある楽器の中でホルンの音色が最もよく鳴り響くと思っていた。だが米国に渡って神韻交響楽団の団員となって初めて、ホルンにも引けを取らない、よく音の通る楽器を知った。

中国楽器「嗩吶(スオナー)」(神韻公式サイトより)

参考リンク:神韻芸術団公式サイト 「嗩吶(スオナー)」チャルメラ

同楽団は中国伝統音楽と西洋のクラッシック音楽を融合させたオリジナル楽曲を演奏する。なかでも、ひときわ高く澄み渡る音を奏でているのが、中国の民族楽器「嗩吶(スオナー)」だ。日本ではチャルメラと呼ばれることも多いが、オーボエと構造を同じくする、2枚リードの木管楽器の一種。嗩吶を前にしては、さすがのホルンも脱帽せざるを得ないと同氏は言う。「嗩吶に合わせて演奏するしかありませんよ」と笑顔でその魅力を語った。

同氏が入団したのは2013年。それまで英国の数々のオーケストラで経験を積んできた同氏が、新たな芸術探訪の旅に出た瞬間だった。

楽団にはバイオリンやトランペットといったおなじみの西洋楽器のほかに、琵琶や嗩吶などこれまで見たこともなかった中国伝統楽器が並んでいた。ルーツの異なる楽器を完全に融合させて、一つの美しいハーモニーを生み出すという新たな挑戦を続けている団員達。「ですから、私たちが退屈する暇などありません」と同氏はユーモラスに語った。

同氏が本格的に音楽を学び始めたのは小学校に入学してからだが、クラッシック音楽への造詣は深かった。だが神韻交響楽団に入団し、東洋の民族楽器にも親しむようになり、琵琶や二胡、哨吶など中国の伝統楽器を知った。「こうした民族楽器の音色がこれほど美しく、繊細だということを初めて知りました。東洋文化の優雅さ、高尚さを十二分に表現することができるのです」。

 

 

「琵琶」は神韻芸術団の独奏楽器の一つで、しばしば西洋人から「中国のリュート」と称されている。リュートとは中世ヨーロッパのバロック時代に流行した弦楽器の一種。琵琶は約2000年前の西漢時代に中国で作られたとみられ、中国では昔から、琵琶の構造は宇宙の構造を模していると言われている。例えば、琵琶の高さは三尺五寸で、これは「天地人」の三体と「木火土金水」の五つの基本元素を表しており、四つの弦は春夏秋冬の四つの季節を表しているという。

「二胡」は欧米人から「中国バイオリン」と呼ばれることもある。「この二胡とオーボエの音色が融合すると、非常に調和のとれた優美な自然の音を奏でることができるのです」約2年の間に、すっかり中国楽器に魅せられた同氏の心には、数々の音色が刻み込まれている。

木管楽器である「嗩吶」は単なる旋律を奏でるだけでなく、人の話し声や笑い声、動物の鳴き声を模した音色も出すことができる。そのため、芝居の音響効果として用いられることもあり、特におめでたい場面や笑いを誘うシーンで多用される。「そのうえ、よく通る音なのです!嗩吶を圧倒することができるのは、「磬(けい:中国伝来の打楽器の一つ)」を除いて他にないでしょう。磬の音はとてもよく響くので、一叩きで会場中に響き渡ります」

東西の楽器を絶妙に組み合わせた音楽が、神韻交響楽団の特色でもある。世界にも類を見ない試みを続ける楽団の一員となったことで、同氏の音楽観に新たな息吹が吹き込まれた。「こうした試みが行われたのは初めてなのです。ですから私たちの演奏会は常に満席です」

東洋の音楽に出会い喜びを見出す

実を言うと、神韻交響楽団に入団する前のボーフ氏は、演奏に対して多く努力してこなかった。幼いころから音楽の資質に恵まれていたため、大した努力をしなくても高い成果を挙げることができたからだ、と率直に語った。

同氏がいかに優秀な音楽家であるかは、これまでの経歴を見れば一目瞭然だ。英国マンチェスターの王立ノーザン音楽大学でホルンを専攻していた時、学費の全てが奨学金で賄われた。その後、同大学の修士課程に進んだ時には、奨学金がさらに増額された。

また大学在学中から、ノーザンバレエ団、BBC交響楽団、そして英国で最も伝統あるオーケストラ、マンチェスターのハレ管弦楽団といった数々の著名な音楽団体に参加した。大学で意気投合した仲間たちと一緒に、金管五重奏団「ノーザン・ブラス」を結成し、英国内各地の音楽フェスティバルやコンクールで輝かしい成績を残している。

こうして華々しい活躍を重ねてきたボーフ氏だったが、まるで、自分の魂が迷子になったかのように、心の中には満たされないものを抱えていた。「私は音楽に天分の才能があり、音楽はまた、生きるための手段でもありました。でもそれが私のすべてというわけではなかったのです」。

 

 精神を高め、音楽もさらなる高みへ

だが、法輪功の修煉者となってからは、こうした苦悩がいつの間にか消えて行き、精神世界を追求する新たな場が与えられた。中国から伝えられてきた佛家修煉法である法輪功は「真・善・忍」の精神を原則としており、修煉者は日常生活でこの原則を実践し、心身の健康を向上させている。

そこでボーフ氏も演奏活動や日常生活で、善良で寛容な心を持つことを実践した。他人や周囲に対する愚痴をこぼさず、彼らのことを思いやり、できる限り自分自身を改め、うまくいかないことはさらに努力を重ねて改善した。すると、全てのことが簡単に進むようになり、ホルンの演奏にもますます熱がこもるようになっていた。練習に長い時間を費やすことができるようになり、音楽に対する自身の潜在的能力をさらに高めることができた。

法輪功では、自我を手放すことも教わった。同氏によると、自分のエゴを手放すたびに、演奏に深みが増していったという。「以前は演奏の出来栄えに関わらず、自分はオーケストラで一番素晴らしい楽器の演奏者なのだと、うぬぼれていました。ですが修煉を始めてから、こうした自己中心的な考え方が間違っていることに気づきました。音楽とはオーケストラ全体で作り上げるものだという視点が抜け落ちていたのです。こうした間違った考えを捨て去ることが必要でした」

彼が得たもう一つの収穫は、他の団員と自分を比べる気持ちが消え去ったことだという。「今の私は、他人と優劣を競いません。すべてを自分の音楽につぎ込んでいるからです。法輪功は私に新たな生活の意義をもたらしてくれ、私に生きる楽しさを与えてくれました」。

ボーフ氏は神韻交響楽団の一員として、神韻芸術団のダンサーたちと共に世界ツアーに出たときのことをこう振り返った。「ニューヨークのリンカーンセンター、ワシントンのケネディーセンター、ロンドンのオペラハウスなど国際的にも有名な大劇場で、世界トップクラスの中国古典舞踊芸術団に音楽を提供することは心から栄誉なことだと感じています」。

さらなる芸術の高みを目指すボーフ氏のホルンの音色が、高らかに響き渡ることだろう。

(翻訳編集・桜井信一/単馨)