アングル:ウクライナ切望の飛行禁止区域、西側が及び腰な理由

2022/03/10
更新: 2022/03/10

[ワシントン 9日 ロイター] – ロシアに侵攻されたウクライナのゼレンスキー大統領は、自国を守るために国際的な飛行禁止区域を設定してほしいと繰り返し訴えているが、米国や他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は軒並み拒絶している。欧州における全面的な戦争の引き金になりかねないと懸念しているためだ。

飛行禁止区域支持派は、街頭デモ参加者から米国の外交政策専門家まで多岐にわたり、ウクライナの人命を救う上で不可欠な手段だと主張する。

しかし、米議会ではバイデン大統領を常日頃から最も痛烈に批判している議員でさえ、飛行禁止区域設置には頑強に反対。例えば、野党・共和党のルビオ上院議員は「第3次世界大戦」を引き起こす恐れがあると警告している。

飛行禁止区域は、冷戦終結後の1990年代に安全保障の万能薬とみなされるようになった。ただ、複数の専門家によると、たとえ効果がある場合でも、それは膨大な軍事資源が投入され、しかも相手側が手ひどく敗北しているか、防御力を喪失している状態に限られる。

ロシアは経済的には超大国でないにしても、軍事的になお超大国である以上、こうした状態とはかけ離れている。

◎飛行禁止区域とは

飛行禁止区域は、戦争地域で身を守るすべを持たない民間人が空爆の被害にさらされるのを阻止するのが目的で、数年にわたって設定される場合もある。

有効性を発揮するためには、設置側の空軍力を当該空域において単に優勢ではなく、圧倒的優勢に保たなければならない。つまり空域を支配することに加え、作戦実行面で脅威となる相手の防空システムを破壊する必要がある。

米国の27人の外交専門家は、ウクライナ市民が避難するための「人道回廊」を守るために「限定的」な飛行禁止区域を設置するよう要望した。

一方、軍事専門家は限定的飛行禁止区域でも、ロシア軍との直接戦闘は避けられないと指摘。ホワイトハウスのサキ報道官は8日、人道回廊上空に限った飛行禁止区域であっても、戦闘を激化させ米国とロシアの戦争突入につながる恐れがあるとの見方を示した。

◎米国と同盟国が検討しない理由

ブリンケン米国務長官は先週の記者会見で「飛行禁止区域のような措置の実効性を担保する唯一の方法は、ウクライナ上空にNATO軍機を派遣し、ロシア軍機を撃墜することだ。それは欧州での全面戦争に発展する可能性がある。バイデン大統領は、米国がロシアとは戦争しないという姿勢を明確に打ち出している」と語った。

NATOのストルテンベルグ事務総長は「われわれは戦争当事国ではない」と発言。NATO加盟国のリトアニアはウクライナの飛行禁止区域設置要求を「無責任」だと批判した。

ロシアのプーチン大統領は、飛行禁止区域に加わった国をロシアは「戦闘参加者」とみなすと警告している。

また、飛行禁止区域が破局的な全面戦争に移行しなかったとしても、実際に効果を発揮する保証はない。

米空軍元将校のマイク・ピエトルチャ氏とマイク・ベニテス氏は先週のオンラインメディアへの寄稿で、相当な抵抗力を有する相手に対して飛行禁止区域を設定して維持したという事例は、過去に見当たらないと述べた。

◎実効性はあるか

冷戦終結以降、飛行禁止区域はさまざまな脅威に対応して設定されてきた。イラクやボスニア、コソボ、リビアなどが挙げられ、作戦が成功したか失敗したかは、それぞれで大きく異なる。ただ、敵対側の軍事力は著しく劣っていたという点は共通している。

ピエトルチャ氏とベニテス氏は、コソボ紛争の事例を取り上げた米シンクタンクのランド研究所の論文に言及し、世界最強クラスの空軍力を持つ米国が二流の防衛態勢に全力で立ち向かったにもかかわらず、圧倒的な制空権を決して確保できず、作戦支援に必要な空中監視機は攻撃されるのを避けるため、当該空域にずっと近づけなかったと説明した。

セルビアの独裁者だったスロボダン・ミロシェビッチは最終的に打倒されたとはいえ、NATOによる空爆を主体とする「同盟の力作戦」は、たまたまうまくいっただけで、純作戦的には失敗だったし、それも20年余り前の話だと強調した。

さらに両氏は、現在1人の兵士が携帯できる対空兵器や最新鋭の地対空ミサイルが配備されている国に飛行禁止区域を設けるのは「作戦上無理があるし、政治的にも受け入れられない」と指摘。米国とNATOにとって危険かつ破滅的な結果が生じるだろうとみている。

◎NATO加盟国からのミグ戦闘機移送

NATOに加盟するポーランドが8日、同国が保有するロシア製戦闘機ミグ29をドイツの米空軍基地に運び、そこからウクライナ空軍の戦力補充用に移送するという驚きの提案をしたが、米政府は断った。

複数の政府高官や専門家は、この提案には幾つもの問題があると話す。米国をロシアとの戦争に巻き込むリスクはもちろん、ドイツからウクライナに移送する態勢を確立し、保有機を渡すポーランドに代わりの戦闘機をどうやって提供するかも決めなければならないからだ。

米国防総省のカービー報道官は「このやり方に相応の妥当性があるかどうかは、全く不透明だ」と語った。

Reuters
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