焦点:拘置所で迎える香港議会選、活動封じられても不屈の民主派

2021/12/18
更新: 2021/12/18

[香港 16日 ロイター] – 自由で開かれた社会と生活が中国政府にじわじわと浸食される中、香港の民主派にとって今年の立法会(議会)選挙は自らの運動が1つの節目を迎える瞬間になるはずだった。選挙で過半数議席を獲得し、香港の未来に対する強い発言権を持てると期待していたからだ。

しかし彼らの多くは選挙前に集会を開くことはできず、拘束されて裁判の開始を待ちながら、拘置所内で睡眠、運動、食事、勉強を規則的にこなしている。ペンの支給は月2本、書籍は同6冊だ。別の活動家は海外に逃げ出した。

訴追を免れるために米国に渡った民主派の1人、サニー・チャン氏(25)は「全ての出来事が矢のように過ぎ去った。1年たってみると、残された本物の民主派はほとんど存在しない。民主派は収監されているか、亡命してしまった」と語る。

「だからこそ、特に多くの指導者が自らの自由を犠牲にして塀の中に閉じ込められた今こそ、われわれは(活動の)原則を堅持し、歴史を忘れてはならない」と訴える。

ロイターは19日の立法会選挙を前に、収監中あるいは亡命中、保釈中の民主派6人に話を聞くことができた。

立法会選挙は本来、2020年9月に実施される予定だったが、中国政府が新型コロナウイルスの感染拡大を理由に延期。今年2月に入ると、香港警察が香港国家安全維持法(国安法)に定められた「国家転覆罪」で民主派47人を起訴。彼らが行った非公式の予備選挙をその理由に挙げた。

3月には中国全国人民代表大会(全人代)が香港の選挙制度変更案を可決し、立法会の直接選挙枠が全体の半分から4分の1に減った半面、親中派が占める選挙委員会が3分の1以上を選出する形になった。さらに中国政府の肝いりで、立法会の候補者が「愛国者」かどうかを事前に審査する機関も設置された。

それ以降、検察当局は裁判所から準備のための時間延長を繰り返し認められ、拘束された民主派のほとんどは香港各地の6カ所の拘置所で審理が始まるのを待っている。11月下旬には香港治安裁判所の判事が、約1万ページに及ぶ証拠書類の翻訳時間を確保する目的で、来年3月まで裁判を中断することを決めた。

被告を守るため匿名でロイターの取材に応じた民主派の弁護士によると、訴追内容を詳しく記した起訴状がまだ提示されないため、助言を与えられず困っているもようだ。通常の刑事起訴手続きから外れているが、なぜ提示が遅れているか公式に理由は明かされていない。

香港政府の鄭若驊(テレサ・チェン)司法長官は16日、今回の立法会選挙候補者は以前の選挙よりも年齢、職業、経歴の面で多様化していると述べた。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官はこれまで、立法会選挙は「参加者のバランスが高まり、ずっと(民意を)代表する」ようになっており、「香港を統治すべき愛国者」が選出されると主張している。

<拘置所の生活>

現在拘置所にいる33人の民主派は、来年3月まで法廷に姿を見せることもなければ、具体的にいつ審理が開始されるかまだ発表もない。

香港で男性の未決囚が入る最大規模のスタンリー拘置所には、予備選挙にかかわった戴耀廷(ベニー・タイ)氏(57)と梁国雄(レオン・クオクホン)氏(65)が収監されている。黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏(25)がいるのは別の拘置所だ。

ある人は独房に監禁され、別の人は集団の留置スペースにいる。女性では、予備選に参加した元議員の毛孟静(クラウディア・モー)氏(64)と袁嘉蔚(ティファニー・ユン)氏(28)がニューテリトリー(新界)の拘置所にいる。事情に詳しい2人の関係者によると、ユン氏は当局から留置場所で不穏な行動をしたとみなされ、9月に独房に入ったという。

拘置所内の民主派は、睡眠、運動、食事、勉強を毎日決まった時間に行う。夜明け直後に起床の号令があり、1時間は運動とシャワーが許される。男性の場合、監視付きでランニングやサッカー、バスケットボールなどができる。これら未決囚は1日2人まで食物の差し入れのための面会が認められている。関係者の話では、支給された2本のペンで書き物をする、あるいは1カ月で6冊まで許可される書籍を読むといった過ごし方をする人もいる。

<抵抗拠点>

英政府は14日公表した香港情勢に関する半期報告書で、民主派拘束の詳しい経緯に触れつつ、行政権に対するチェック・アンド・バランスの機能を弱めるために、異なる意見を自由に表明する場が抑え込まれ続けていると警鐘を鳴らした。その上で、3月の香港選挙制度変更は中国本土や香港政府と足並みをそろえない勢力を、ほぼ完全に立法府から排除する狙いがあると指摘した。

拘束された民主派のうち14人は保釈されている。彼らの数人は、法的リスクがあると承知しながらも、19日の選挙で香港市民は棄権するか白票を投じるべきだとロイターに語った。香港当局はここ数週間で、白票の投票を扇動したとして10人を逮捕している。

別の民主派は白票と棄権について「今われわれにできることは乏しいが、これが抵抗拠点の1つになる。外国に亡命していても、拘置所にいても、あるいは香港社会にとどまっていても、外部環境によって心を蝕まれてはならない」と強調した。

 

12月16日、自由で開かれた社会と生活が中国政府にじわじわと浸食される中、香港の民主派にとって今年の立法会(議会)選挙は自らの運動が1つの節目を迎える瞬間になるはずだった。写真は香港のスタンリー拘置所。6日撮影(2021年 ロイター/Tyrone Siu)

Reuters
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