中国南部、記録的な洪水「救助部隊の活躍ぶり」報道目立つ

2019/07/23
更新: 2019/07/23

6月から7月にかけて、中国南部では記録的な大雨が続き、洪水が多発している。官製メディアの報道によると、南部を中心に8つの省の数百万人が洪水や大雨の被害を受け、経済損失は数百億元に上ぼる。

長引く大雨により深刻な洪水が発生し、一部の地域では水位が過去最高となった。新華社によれば、中国の水利部防災局副局長・王章立氏は記録し始めて以来、全国で377の河川が警戒レベルを超えたと発表した。16の省で1万5000回の洪水警報を発表した。

堤防が決壊した華南地域では被害が甚大だ。湖南省衡陽市では、堤防が7月中旬に決壊し、広域にわたって洪水被害を被った。官製・人民網によると、7月14日までに、湖南省14の市では393万人あまりが被害に遭い、数千棟の家屋が倒壊あるいは大破した。湖南省は、120万元(約1880万円)の捻出と、布団や綿入りの上着1000着あまりの支給を発表した。しかし、ネットユーザーは、被災者の規模から、政府交付金の救済金は一人当たりわずか三毛(約15円)程度だと推計した。

官製・澎湃新聞によると、湖南省衡東県の河川・湘江の支流が氾濫し、約2000ヘクタールにわたり河の水が広がった。周辺の4つの村の住居の多くが浸水したという。中国社会科学院が運営するメディア・中国経営報は、現地取材を行った。住民によると、過去数年で、3回に渡り堤防工事が行われたが、単に木や雑草を除去して黄土を埋めただけで、防災工事ではないと述べた。

米VOAが中国経営報の情報を引用して伝えたところによると、被災地域の中国共産党当局者はメディアに対して、被災地の取材には必ず政府宣伝部を同行するよう要求している。

甚大な洪水被害を被った衡東県の住民、謝さんによると、洪水は引いたものの、ゴミや泥の除去など掃除ができておらず、至るところで悪臭が漂っているという。また、家屋の損壊した被災者は親戚の家に仮住まいするしかなく、ストレスを募らせている。謝さんは、各地から救援物資が届いているとのニュースは聞くが、物資は現地に届いていないと述べた。「数人が死亡したが、被害状況に関する情報は少ない」

中国経営報によると、衡東県には何十もの小さな水力発電所と浚渫船(しゅんせつせん・河川工事などのために川底から土砂をすくう作業船)があった。住民らは、これらが川の流れを妨げ、堤防が決壊したと疑っている。

メディアの報道は救助に当たっている人民解放軍と武装警察官の「活躍ぶり」がメインとなり、「被災地はすでに日常を取り戻しつつある」とアピールしている。

湖南省の官製サイト・紅網は、湖南新聞の報道を引用して、「湘潭:楊梅洲の世帯全員は安全に避難」と大きく発表した。湖南日報は「優しさ溢れる避難所」「最後の任務全う」「人民解放軍に感謝」「心臓バイパス手術を受けていた彼、ライフラインの構築に奮闘」など、当局や軍の災害対応を強調した内容が目立ち、実際の被害者たちの窮状を伝える内容は少ない。

米VOA21日付の報道によると、中国最大のSNS新浪微博で、「南方水害」「南方洪水」を検索しても、被災状況を確認できる記事や写真、動画がわずかしかない。南部の洪水に関する議論トピックを立ち上げても、削除される現象が起きている。当局がこの水害について、情報統制している可能性がある。

微博ユーザーの「華西病院心内科楊慶」は報道に疑問を呈した。「今年、南部の洪水は深刻なはずだが、奇妙なことに圧倒的に報道が少ない。動画などもほとんど見られない。もっと伝えるべきことがあるはずだが。報道が増えれば、各方面からの救援活動も活発になるだろう」

16日、「これほど深刻な被災をなぜ政府メディアが報道しないのか」と題する記事がネットで話題になった。「セルフメディアの報道や動画がインターネットに掲載されなければ、江西、湖南に洪水が発生したことすら知らなかった。いわゆる主流メディアはごうごうと流れる洪水を見て見ぬふりをしている」と批判した。

17日、微博のユーザー「@柴知道」は「湖南省で11日から豪雨で11人死亡、6人失踪した。湘江が一時、決壊した。湖南省政府は最高レベルの警報を発した。このことを知っているのか」のネット投票を立ち上げた。19日までに4.7万人のユーザーが参加し、78%の人が「全く知らない」、12%は「どこかで見たことがあるかもしれませんが、気にしなかった」、10%は「よく知っている」との結果になった。

重大な災害が発生すれば、政府指導部メンバーが被災地を視察するのは慣例となっているが、今回の災害では政府高官の姿もお見舞いの言葉もなかった。

いっぽう、微博では、同時期に起きた京都アニメーションスタジオの放火事件、ニューヨークの大規模停電、インドの洪水被害などの詳細が即時に伝えられた。

(翻訳編集・佐渡道世)

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