アングル:新型コロナがアラブ産油国直撃、原油暴落に追い打ち

2020/03/22
更新: 2020/03/22

[ドバイ 17日 ロイター] – 新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格の急落という二重の打撃を受けたことで、経済への影響を回避し為替相場の維持に努めつつ財政の安定性を確保しようとする湾岸アラブ諸国の政府にとって、打つべき手はほとんど残されていない。

アラブ諸国のなかでも最大の経済規模を誇るサウジアラビアは、3月6日、OPEC及びその協力国との増産合意により、30%もの原油価格急落を引き起こし、ロシアとの市場シェア争いで攻勢に出た。そのサウジアラビアでさえ、直面する状況は厳しい。

原油価格の暴落が生じた最も新しい例は2014年。このとき、エネルギー資源の輸出に依存する湾岸諸国は政府補助金を削減し、財源多角化のために複数の税を導入し、「ゆりかごから墓場まで」式の充実した福祉制度や肥大化した公的部門の縮小に努めた。

だが最近は、景気刺激策と新型コロナウイルスが国民に与える影響の緩和に注力していることから、湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国の政府にとって、増税や補助金削減といった政策は取りにくくなっている。

原油価格が回復しないとしても、ほとんどの国の政府は、潤沢な外貨準備に頼ることができる。設備投資を削減して財政赤字に対応するか、国債発行によって時間を稼ぐこともできる。

だが、匿名を条件として取材に応じたサウジアラビアの銀行関係者は、匿名を条件として、「外貨準備があるといっても、現在の歳出ペースをそれほど長く支えられるわけではない」、したがって「歳出を削減せざるをえないかもしれない」と話す。

「難しい時期だ。人々は、次に起こりうる事態を話題にしはじめ、準備を始めている」

流動性が厳しくなるとの予測から、すでに湾岸諸国の通貨にはプレッシャーがかかっている。各国通貨は、これまで数十年にわたって米ドルと連動していた。

<国ごとに異なる抵抗力>

もっとも、GCC6カ国がすべて同じ状況にあるわけではない。危機への抵抗力には明確な違いがある。

カタールの財政は黒字であり、同国の経済は液化天然ガスの輸出に依存しているため、原油価格による直接的な影響は受けにくい。だが、オマーンやバーレーンなど、累積債務を抱えた小規模な産油国は、価格の変動に対する脆弱性が高い。

とはいえ、アルカーム・キャピタルによれば、原油価格が1バレル=30ドルまで下がると、「GCC全体の財政状況は急激に悪化する」という。

今年の原油価格が1バレル30─40ドルで推移すれば、湾岸産油国は数百億ドルの歳入を失う可能性がある。

アルカームによれば、原油価格が平均1バレル=40ドルだった場合、サウジアラビアの2020年の財政赤字は、当初予測の6.4%から16.1%へと拡大する可能性がある。1バレル=30ドルなら、財政赤字は22.1%に達するという。ロイターの計算では、これは約1700億ドル(約18兆5000億円)に相当する。

小規模な近隣諸国とは異なり、世界トップの石油輸出国であるサウジアラビアは、生産量を拡大することで価格下落の影響をある程度相殺できる。それでも、関係者が先週ロイターに語ったところでは、サウジアラビア政府はすでに各政府機関に対し、少なくとも前年比で20%削減した予算案を提出するように要請したという。

<痛みを伴う措置>

一部のアナリストによれば、この地域では政府による歳出が経済成長の主要なけん引車になっていることから、歳出削減はリセッションにまでつながる可能性があるという。

サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールの各中央銀行は、新型コロナウイルスの影響を緩和するため、合計600億ドルの景気刺激措置を提示している。また各国政府は、民間セクターを支援するため、不動産取引手数料や光熱費を引き下げている。

アブダビ・コマーシャル・バンク(ADCB)でチーフエコノミストを務めるモニカ・マリク氏は、「GCC諸国では、経常支出よりも設備投資から優先的に削減する傾向が見られる」と言う。「だが原油価格の下落圧力が続けば、経常支出の面でもかなりの削減が必要になるだろう」

近年、原油価格が回復するなかで財政規律は緩みがちになっており、各国政府は経済成長を優先させてきた。オマーンなど一部の国では、政治不安を避けるために、税の導入やさらなる補助金削減を先送りしてきた。

ノムラ・アセットマネジメント・ミドルイーストのタレク・ファドララー氏は、「新型コロナウィルスと原油価格下落という二重苦は、各国政府だけでなく、経済活動テコ入れのための政府支出に頼りすぎている企業にとっても、警鐘になるかもしれない」と語る。

<国債増発にも難題>

ADCBのマリク氏によれば、UAE、クウェート、カタールはサウジアラビアよりも財政的に余裕があるだけに、より長期にわたって原油価格の下落に耐えられるだろうが、それでも「大幅な財政赤字が続くことを望んでいるとは考えにくい」という。

各国政府は、痛みを伴う措置を回避するために、国債発行の拡大や資産の売却による資金調達を図る可能性もある。

サウジアラビアは2014年以来、グローバルな低金利状況を利して、対外債務により1000億ドル以上を調達した。

政府債務は国内総生産(GDP)の約20%に留まっていることから、サウジアラビアは今後も国債発行により財政赤字を補うことができるが、2019年時点でGDP比17%に相当する約4690億リヤル(約13兆6000億円)の外貨準備を取り崩す方を選ぶかもしれない。

フィッチ・レーティングスの中東・アフリカ地域担当ディレクター、クリスジャニス・クラスティンス氏は、「実際には、サウジアラビア政府は今年、GDP比で約3%に相当する国債を発行する計画だった(財政赤字はGDP比6.4%)。恐らく、必要に応じて債券市場でさらに資金を調達する可能性もある」と話す。

だが、原油価格の下落を受けて湾岸諸国の国債は大きく売り込まれており、借入コストは上昇している。すでにオマーンとバーレーンの国債は、すべての主要格付機関から「ジャンク」の評価を受けている。

また、先週、サウジアラビア国債のデフォルト可能性に対する保険料は約3倍に上昇、2016年以来最高の水準となった。

(翻訳:エァクレーレン)

Reuters
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