【独占インタビュー】鈴木正人・埼玉県議会議員 中国大使館からの威圧的な電話に「屈することはない」

2021/07/15
更新: 2021/07/15

7月2日、埼玉県議会では対中人権問題意見書が採択された。週明けの7月5日、中国大使館から議会事務局宛てに一本の電話が来た。

政務担当参事官と名乗る人物は、「意見書を作成した人物はだれか」「何名の議員が賛同したのか」などと質問し、意見書は「核心的利益に関わる内政干渉」であると主張した。

これに対し鈴木正人・埼玉県議会議員は「地方議会に圧力をかけてくる中国共産党政権のやり方こそ内政干渉ではないか」と一蹴し、圧力に屈しない姿勢を鮮明にした。議会内部の様々な意見をまとめ、紆余曲折を経て圧倒的な賛成多数で採択に持ち込んだ経緯についても伺った。


ー意見書を出した経緯について。

ウイグル協会が埼玉県に消毒液を寄付した際に、大野知事が同席し、交流を行った。同じ時期にウイグル国会議員連盟が超党派の組織となり、全国地方議員の会も結成された。さらにウイグル人たちの街頭活動も活発化し、国会でも決議に向けて動く機運があった。

2月の定例会で、所属する会派「無所属県民会議」を通して、「ウイグル人などの少数民族への人権弾圧に抗議し、日本版マグニツキー法の成立を求める意見書(案)」を提出した。残念ながらこの意見書は通らなかった。

ーウイグルの人々と接触することでどのようなことを感じたか。

在日ウイグル人のハリマト・ローズさんの兄が新疆ウイグル自治区の故郷で人質のようになっていたことを知り、胸が痛くなった。ローズさんは中国当局から抗議活動をやめるように言われ、スパイ行為を強要されていた。ローズさんから動画を見せてもらったが、その兄の隣には中国の公安らしき人物がいた。

これはただ事ではないと分かった。世界中も非難を始めた。日本も民主主義国家なので、この問題を放置してはいけないと思った。

ーウイグル人の迫害は証拠がないという見解もある。

報道を見る限りでは、証拠がないとはとても思えない。ナチスがユダヤ人を収容所に護送したように、列車の前で囚人服を着たウイグル人の動画を見た。また、中国共産党をたたえる歌を集団で歌わせられる、一か所に集められて中国共産党への忠誠を誓わされる、という動画もみた、作り話とは到底思えない。清水ともみさんの本もある。

さらに、東京大学の大学院卒のウイグル人女性が逮捕された父親に会うために帰国すると、1年後に死亡した。痛ましい事件だ。情報機関のネットワークが広い主要国は、中国共産党の行為をジェノサイドと認定している。(弾圧は)とても嘘とは思えない。

乗り気でない議員を説得し、圧倒的多数で可決

ー国会では対中非難決議は見送られた。いっぽう、埼玉議会では可決した。議員の反応は?

(非難決議が)票につながるかと言えば、正直難しいところだ。政治家は残念ながら票に結び付くかどうかで真剣度合が変わるので、冷ややかな部分はあったと思う。

ただ、私の埼玉県議会の会派のなかでは、会派として推進していこうというコンセンサスはあった。残念ながら外交問題は意見書になじまないという理由で、一時は却下された。しかしその後、様々な報道が出てきて、ただ事ではないという雰囲気になった。

3月定例会では内容とタイトルを変更し、緊急動議もかけた。残念ながら緊急動議は却下された。ある意味、執念深く推進した。そしてマグニツキー法(人権侵害者に対して制裁措置を取る法律)では合意を取り付けることが難しいことが分かり、人権問題の非難に焦点をあてた。

ー議員のなかでも意見の変化があったのか。

この問題を無視していれば、自由や民主主義、人権を無視するような政治家で果たしてよいのか、という課題を突きつけられた。人権問題に対する取組みはすぐに票にはつながらないが、世論を考慮すれば反対しにくいという認識は広まっていたと考える。

ー最終的にどれだけの議員が賛成したか。

本来であれば全会一致が望ましかったが、残念ながら、公明党は賛成しなかった。それ以外の会派の議員はみな賛成した。日本共産党の議員も賛同を示し、中国共産党に対しては毅然とした態度を取っていた。

結果的に、約80名の賛成に対し、反対は9名だけだった。

ー公明党は会派として反対したのか。

内部でどのような話が行われたのかは不明だ。同じような主旨の意見書は、那覇市議会では全会一致で可決したので、絶対に反対というわけではないと思う。しかし、中野区議会では公明党は反対していた。公明党と中共の関係は深いものがあるので、反対に回ったのではないかと推測している。

日本政府も徹底調査に動くべき

ー賛成討論をしたのも、公明党が反対したからか。

公明党が反対したので、賛成討論をした次第だ。反対討論がなかったので、反対した具体的な理由は定かではない。

しかし先ほども話した通り、ハリマト・ローズさんがその兄から日本での活動をやめてスパイ行為をせよと言われた。各種調査の結果からも、ウイグル人に対する大規模な強制収容は事実だと判断できる。

今回の意見書のタイトルは「中華人民共和国による人権侵害問題に対する調査及び抗議等を求める意見書」となっている。事実認定ができないのであれば、まず調査をせよという趣旨で、どの会派でも賛同がしやすいものだと思う。日本政府として徹底調査を行うべきだ。

情報機関の成熟した米国は日本の同盟国だ。情報請求ができないだろうか。自由主義陣営でも友好国は多い。(現地調査はできない、証拠がないなど)できない理由ばかりを並べず、多くの情報を仕入れ、あらゆる手立てを取るべきだ。

ー中国共産党成立百周年の日に都内で行われた犠牲者の追悼式典で乱入騒ぎがあった。中国共産党の影響力が海外に及んでいる可能性もあるのではないか。

十年以上前に、長野で行われた聖火リレーに対して、チベット人やウイグル人が抗議活動を行った。日本国内にいた中国共産党のシンパが5000人ほど集まり、抗議活動の妨害をした。彼らは大きな五星紅旗を持ち、少数民族たちの抗議活動を覆い隠した。なかには、足蹴りされたり、車を叩かれたりする嫌がらせもあったと聞いている。

諸外国で抗議運動をすることさえ容認できないという人が多くいたことは残念だ。同時に、怖さもある。何をするかわからない。放置していいのか、という課題もある。

ー香港では中国共産党による締め付けがどんどん強められている。

香港の言論の自由はもはや風前の灯だと思う。大紀元の印刷工場が襲撃されるという、考えられないような事件も起きた。ハンマーで印刷機械を破壊する映像も出回っているが、まさに言論に対する暴力だ。

香港人には最後まで頑張ってほしい。これは日本人も教訓にする必要がある。今日の香港は明日の台湾や日本だ。明日は我が身という姿勢で警戒する必要がある。

大使館から「圧力」の電話 屈せずTwitterで暴露

ー意見書を可決したあと、どのような声があったか。

金曜日に可決したが、翌週の月曜日にさっそく中国大使館から、なかば恫喝のような電話が議会事務局に来た。意見書の中身は事実無根であり、一方的なものであるとの話だった。

そして質問として、意見書はだれが作成したのか、賛成討論をした鈴木正人議員は何期か、など、私に対する圧力を感じさせるような質問をしてきた。

この出来事をツイッターに乗せたところ、1万6千を超える「いいね」をいただいた。コメントのほとんどは応援のメッセージで、否定的なものは見当たらなかった。

ーツイッター上の反応は日本の民意を表している。

色々な意味で変わりつつあると思う。いままでは目に見える人々の票で当落が決まっていたが、都市部では普段声を出さないが静かに応援してくださる方も多い。

そして、民衆が人権問題に興味を持っていることが分かれば、最初冷ややかに見ていた政治家も人権問題に取り組むようになり、各地で意見書が出されるかもしれない。最終的には国会で決議案が可決されれば、人権問題に興味がないと発言する人もいなくなるだろう。

ー中国ではウイグルに対する弾圧の他にも、臓器の強制摘出問題や、法輪功学習者に対する迫害などの問題もある。

各地で意見書が可決される、あるいは国会で決議案が採択されたら、次の段階として臓器摘出問題などについて議論する可能性も見えてくる。

一般の日本人からすれば考えられないような話だが、自民党の重鎮にはしっかりとした対応を求める。許されないような人権侵害が行われていることに対しては、国際的な批判を強めていく必要がある。

ー中国大使館は、外国の批判を「内政干渉」に当たると主張している。

中国大使館から議会事務局宛ての電話では、「新疆ウイグル自治区は、中国の領土の一部である。地方議会であっても、核心的利益に関わる内政干渉に当たると考える」との主張があった。私に言わせれば、一地方議会の意見書に対して、いちいち調べて電話を掛けてきて、「それはおかしい」と指摘する中国大使館こそ内政干渉だと思う。

中国大使館が「日中友好」を掲げるなら、地方議会への圧力ではなく、中国政府が新疆ウイグル自治区への規制なしの現地調査の受け入れなどを認めて、疑いを晴らすような行動を促してはどうか。

ー領事館ではなく、大使館から電話が来たことについて。

中国共産党がすごく神経質になっていることの証拠だと思う。以前、同様の意見書を採択した他の議会にも大使館から連絡があったようだ。大使館がわざわざ地方議会の動向を注視し、意見を申し入れることは常識では考えられない。

ー中国共産党から弾圧を受けている人々にメッセージをお願いしたい。

弾圧されている人々にとっては地獄の日々かと思う。そして香港の方々も危機を感じていると思う。だが、長い歴史で見れば、そのようなものは必ず駆逐される。

かつてナチスはホロコーストを否定していたが、終戦間際にアウシュビッツでの蛮行が発見された。明日への希望を持ち、歴史は自由と民主主義、民族自決の方向に向かって進んでいくことを信じて頑張ってほしい。

中国共産党政府は力を利用したり、お金を凍結したり、ありとあらゆる手段を取るが、絶望せずに頑張ってほしい。世界には味方が多くいる。自由と人権、民主主義を守る多くの味方がいる。明日への希望を持って踏ん張ってほしい。

(聞き手・王文亮)


※読みやすさのため、一部体裁を整えました。

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