中国当局、海外華人に「越境弾圧」 仏報告書が実態明かす

2021/09/30
更新: 2021/09/30

仏国防省傘下の軍事学校戦略研究所(IRSEM)が発表した約650ページに及ぶ報告書、「中国(共産党)の影響力作戦」は、中国共産党政権が、世界各国の中国系住民を党の方針に従わせるように、「世界最大の越境弾圧」を行っている実態を明らかにした。

報告書は、中国当局が世界各国で影響力を行使していると同時に、国内から海外に亡命した反体制派や民主化活動家などを対象に弾圧を進めていると指摘した。報告書によると、当局は海外のすべての華僑の個人情報を集めており、華僑を監視、脅迫、暴行、嫌がらせをし、中国国内に残っている親族へ圧力をかけるなど、中国共産党に批判的な華僑を抑圧している。

統一戦線工作の「優先的ターゲット」

報告書は、中国政府系メディアの報道を引用し、中国当局は全世界に約4000万から6000万人の「華人」がいると認識していることを示した。中国当局は、華僑(外国に常住する、または一時居住する中国籍国民。香港・マカオ・台湾の人々も含む)、外国籍に帰化した中国出身者、外国で生まれた中国系住民を「華人」と定義している。

中国国内と比べて自由な環境にいる「海外の華人」は、中国共産党に批判的な意見に直接触れる。当局は、華人らが当局に不利な情報を国内の親族に広める可能性が高いとみて、統一戦線工作の「優先的ターゲット」にしている。

「華人」の一部には1989年の民主化運動以降、海外に亡命した大学生、または香港や台湾の出身者がおり、あるいは何世代も前に外国に移住して、中国と全く関係のない人もいる。

2019年8月23日、リトアニアのビリニュスで開催された香港の民主化運動支援集会に対して、一部の中国系住民は妨害し、騒動に発展した。中国系住民による反対デモには、駐リトアニア中国大使館の職員が参加した。地元警察が中国籍2人を逮捕した際、中国大使館の外交官が2人の釈放を求めたという。リトアニア外務省はその後、中国大使館の職員が「違法行為の企てに関与した」として、中国大使を呼び出し抗議した。

スウェーデンでは、中国当局の関係者2人は、スウェーデン国籍で香港「銅鑼湾書店」の株主である桂民海氏の娘、アンゲラさんに対して脅迫したことが報じられた。同書店は中国当局批判の本を販売することで知られている。2015年以降、桂民海らを含む書店関係者が相次いで、消息を絶った。後に中国当局に拘束されたことがわかった。桂民海氏は17年10月に解放されたが、18年再び拘束された。アンゲラさんはこれ以降、海外メディアの取材を受けたり、SNS上で発信したりして、各国政府に父親の解放に協力するよう呼びかけていた。

2019年、中国の「企業家」と自称する男性2人がストックホルムのホテルでアンゲラさんと会い、アンゲラさんに対して、メディアへの発言をやめれば父親を解放できると圧力をかけた。アンゲラさんによると、1人の男性は「あなたにとって一番大切なのはどちらなのかを思い出してください。自分の価値観か、それとも父親か」と話した。スウェーデンのアンナ・リンドステット駐中国大使がこの面会を仲介したため、波紋が広がった。

アンゲラさんは中国当局の工作員に脅迫された多くの華人の1人である。

カナダ人女優のアナスタシア・リン氏は、中国当局に弾圧される伝統気功、法輪功の学習者で、人権問題について国際社会で積極的に発言したことで中国当局の反感を買った。当局は、同氏を「好ましくない人物(ペルソナ・ノングラータ)」と指定し、中国への入国を拒否した。

リン氏は2015年、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれた後、中国湖南省で企業を経営する父親から、中国治安当局者が家にきたとの連絡を受けた。当局から圧力を受けた父親は、リン氏に人権問題に関する活動をやめるよう要求した。

「誰にでも起こり得る」

IRSEMの報告書は、脅迫は中国共産党が用いる戦術の一つだと示した。ターゲットは夜中に電話を受け、相手に罵倒されたり、脅かされたりしている。

また、中国の反体制派であると偽って、外国政府関係者に侮辱的な電子メールを送信するなど、反体制派に対する外国政府の信用を落とそうとしている。

中国系カナダ人政治家、リチャード・リー氏(ブリティッシュコロンビア州議会副議長)は2015年、上海の空港に到着した際、国家安全保障に危険をもたらすとの理由で、地元当局に8時間拘束された。警察当局はリー氏の個人用携帯電話と政府関係用携帯電話の両方を調べてから、同氏を国外退去させた。

リー氏は2019年にこの経験を明らかにした。同氏は、1989年の民主化運動で犠牲になった人々を追悼するイベントに毎年参加していることや、中国の人権問題を批判していることが上海で一時拘束された理由だと考えている。

報告書は、「リー氏のような公職者が嫌がらせを受ける可能性は、彼自身が言うように『誰にでも起こりうる』ということだ」と指摘した。また、報告書は、カナダで起きたこの事例は、「大きな中国人コミュニティを持つすべての自由民主主義の国で展開されている」と警告した。

法輪功学習者を狙う

1999年中国当局が法輪功学習者に対する弾圧政策を実施してから、海外でも法輪功学習者への監視と抑圧を始めた。報告書では、法輪功弾圧の専門機関である「610弁公室」の元職員である郝鳳軍氏は、中国当局はカナダで中国系カナダ人、学生ら1000人以上を工作員として動員したと証言した。

また、豪州の駐シドニー中国領事館の元一等書記官である陳用林氏は、中国当局は豪州と米国の法輪功学習者を対象にした情報提供ネットワークを構築しており、自身の仕事は法輪功学習者への「監視と迫害であった」と話した。2005年、豪州政府に政治亡命を求めた陳氏によれば、中国の外交官は海外の法輪功学習者を特定してブラックリストに載せ、中国への帰国を阻止するとの指示を受けているという。

海外メディアへの弾圧

大紀元時報の記者の中にも、中国当局の脅迫を受けている人がいる。

2010年、大紀元の姉妹グループである新唐人テレビの記者、王涛氏は、中国当局の工作員から電話で殺害予告を受けたと明かした。同氏が工作員の要求を拒否したため、嫌がらせや脅迫はエスカレートしていった。

王氏は2007年、中国からカナダのブリティッシュコロンビア州に移住した。09年、新唐人テレビの記者として活躍し始めた。度重なる脅迫を受けた王氏はその後、カナダの警察当局に通報した。

当時、王氏は地元メディアの取材に対して、「工作員らは『カナダにいるからといって、われわれが何もできないと思っているのか?』『もし、このことをメディアなどに話したら、殺すぞ』と言われた」と語った。

王氏は中国国内に医療機器関連企業1社を所有している。同年8月、同会社の取引先企業の幹部は中国国家安全部(省)の職員に呼び出された。職員らは、王氏がカナダで「国家安全を危害する違法活動に参加している」として、取引先の企業に王氏の会社とのビジネス関係を解消するよう強要した。中国当局は、王氏の会社の銀行口座を凍結した。

(文・Eva Fu、翻訳・張哲)

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