【伝統を受け継ぐ】 書道「竹香流」

【大紀元日本4月28日】天女の羽衣を思わせる軽やかさとしなやかさ、同時にきっぱりと思い切りのよい鋭さと躍動が感じられる魅力的な書体である。書道竹香流」は門長(もんちょう)竹斎さん(79)によって創造、確立された書法だ。毛筆ではなく、門長さんが試行錯誤の末、開発した竹筆を使って書く。「竹香流」誕生の経緯や竹筆の魅力などを松阪市飯高の山荘に門長さんを訪ねて聞いた。

奈良方面から旧くは伊勢街道であったという国道166号線を東に向かう。吉野杉の繁る山を背景に満開の桜が点々と華やかさを添える。松阪市に入ると、枝垂桜が多く目に入る。国道沿いにある宝蔵寺の枝垂桜は樹齢300年を超す風格のある親木と、その子桜も樹齢50年で壮年期の力みなぎる見事な大木の頂から地面にまで届く大きな花のドームを作っている。櫛田川に沿ってさらに東へ、飯高町に門長さんのアトリエである山荘が建つ。「年を取ればとるほど、自然の中にいたいと思うようになります」という門長さんが16年前に手に入れた山荘だ。

役所勤務のかたわら書に親しんできた門長さんが、先人の書を手本にする臨書に飽き足らず本格的に自分の書体を追求し始めたのは50歳の頃だったという。棕櫚や藁など毛筆以外の筆を試作しては書くうち、竹を材料に作った筆がおもしろい効果を生むことを発見する。とはいえ、一朝一夕に現在使っている竹筆が出来上がったわけではない。試作しては書くことを繰り返し、まさに竹筆との格闘であったという。「結局、ヒントになったのは万年筆でした。先に細かい切込みを入れて墨だまりにするのです」「満足できるものが出来上がるまでに4年位かかりました」と門長さんは当時を振り返る。

毛筆の場合、墨がにじんだり、かすれたり、つまり潤と渇が自然にできる。竹筆ではそれはない。すべて手の加減でかすれを作り出すのだという。門長さんの書の特徴は、まさにこの美しいかすれにある。「このような書体は、かつて弘法大師、空海が残した書にもあるようです。飛白体と呼ぶのです」「どんな筆を使ったのかは、分からないのですが、多分刷毛のようなものを使ったんでしょう」と門長さんは語る。飛白の「飛」は筆勢の飛動を、「白」は点画のかすれを意味し、後漢の書家が考案した書体だという。

竹筆による書は、いつでも同じように書けるわけではない。「墨が筆によく馴染まなくてはいけない。次に、筆が紙に馴染まなくてはいけない。竹の筆は固いですから、馴染まないと紙が破れます。そして、書き手の気持ちが馴染まないといけない」墨、筆、紙と書き手が一体になったときに一気にかけるのだという。「馴染まないときには、やめます。紙が無駄になるから」と門長さん。

「竹は優れた植物ですよ。しなやかだが、斜めに切ると切り口は鋭い。天を衝くようにまっすぐにぐんぐん伸びる。しかも、伸びっぱなしではなく、節目、節目をきちんと残します」。「竹のしなやかさ、鋭さ、素直さを書で表現したいと思っています」と竹の話になると一層話に熱がこもる門長さんである。

57歳で初の個展を開いて以来、個展と国内外の展覧会出品、受賞を重ねる。造形的な美しさの故か、海外での評価も高い。東京上野の森美術館における国際美術協会展や東京国際フォーラムでのフォーラム賞受賞などに加えて、モナコ、オーストリア、フランスなど海外の展覧会への招待出品、受賞なども多い。

次の個展の予定を尋ねると「さあ、いつになるでしょう。定期的に個展を開いているわけではないのです。自分の中で、進歩、変化が感じられたら、個展の気分が高まってくるのです」。来年は80歳になるという門長さんに、若いときに比べて創作に衰えを感じることがあるかという問いに「身体的には、時として衰えを感じることもありますが、書の方で衰えを感じることはありません。年を取ることに誇りを感じていますよ」と。若々しく優しい笑顔だ。

門長竹斎さんの作品「逢福」(撮影・Klaus Rinke)

門長竹斎さんの作品「道」(撮影・Klaus Rinke)

(温)