売り切れ続出? 過熱化するラン活 何が起こっているのか

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ランドセル予約は早くしないとなくなってしまう」。最近、このような声が聞かれる。

今年の新一年生はついこないだ入学したばかりだというのに、来年、小学校入学を迎える子どもを持つ親は、愛する我が子のためにと、カタログを取り寄せたり、ネットで情報収集したり、展示会に出向いたりする所謂「ラン活」に大忙しだ。近年「孫には良い物を持たせたい」とばかりに祖父母も参加し、家族の一大イベントになっている。

マスコミの報道でも「ラン活」の話題は過熱気味だが、実際のところはどうなのだろうか。

 

高額化するランドセル

近年、ランドセルの価格が上昇し続けている。

教材がA4サイズに大型化したことにより、ランドセルも大型化した。その上、原材料費、人件費が高騰し、価格を上昇させていると言われている。

一方でネット上では「高すぎる」との声も聞かれ、他にも「中古ではだめなのか」という意見もあれば、「ランドセルは重いし高価で買うのが馬鹿馬鹿しい、リュックサックで良いのでは」という声もあがる。

 

なぜこんなに早く、展示会が開かれるのか?

ここ数年ランドセルの展示会の時期も年々早まっている。毎年、メーカーや工房を数社集め合同ランドセル展示会を全国で開催している株式会社YMGの社長、安田裕樹氏に話を聞いてみた。

「もともと販売ピークは11月で、展示会は夏にしていた」と語る安田氏のもとには、昨年の6月の展示会の際、「6月の展示会のランドセルを見て決めたいが、1月に見たランドセルは無くなりませんか?」という問い合わせが非常に多く寄せられたという。

​業界全体の販売開始時期が早まるに連れ、ある会社は前年の冬に、つまり一年以上も時期を前倒しし、年長児童ではなく、年中児童に向けた展示会を開催している。一つのメーカーが早く販売を開始すると、あそこも開始するならウチもと、抜け駆けをする会社が後をたたない。

「ランドセルを買う児童の数が決まっている中で他社よりも早く予約を取ろうと、どんどん売出し開始が早まっている」と安田氏は言う。

一般的に年中から年長へと移り変わる5歳くらいの時期は、幼児から児童へと意識も変わる時期で子どもの好みもガラリと変わる場合も少なくない。子どもの好みに合わせて買ったのはいいが、高学年になると色や装飾の好みが変わって後悔するというケースも心配される。

このような売出し時期がバラバラになっている状況に安田氏も業界団体のランドセル工業会に「売出しスタートは同じにして欲しい」と提言したものの、工業会は聞く耳を持たないので、こういった取材によって事実が明らかになるのは意義があると述べている。

 

ランドセルは、本当に早く予約購入しないとなくなってしまうのか

展示会の開催の早まりとともに、早々に完売する商品も増えてきている。

最近、自社工場を持ち受注生産で少量ながらも独自のランドセルを製造している、所謂「工房系」と呼ばれる会社が脚光を浴びている。これらの会社はコードバンなど希少な皮革材料を使用し、職人が丹念に作り上げるという本物指向の価値観を打ち出した。

これが少子化の世相の中、我が子には少々高くてもしっかりした良いものを買い与えたいという親、そして祖父母の思いにマッチし、人気を博している。

ネット上でも、人気の工房系の会社は、販売開始とともに売り切れるというランドセルがでてきており、こうした完売という事実だけが、独り歩きして、他のランドセルも完売するのではないかという錯覚が生じている。

ふわりぃ」という名前でブランド展開している株式会社協和の営業担当、飛田理氏は「生産を委託している一部の会社やごく少量の生産規模しかない会社のランドセルが早く完売してしまったり、そういうところがピックアップされてしまっている」と語っている。

また樋口鞄工房の工場長、長沼徹氏は、子どもの母親同士の近所づきあいの中でも「ウチは〇〇万円のランドセルを予約した」とか、「〇〇のランドセルはもう無くなっていた」とか言う話をしたりして、煽られている部分もあるのではないか」と述べている。

完売する商品はごく一部であるのに、〇〇のランドセルは完売したという声を聞き、早めにランドセルを買わないとなくなってしまうという焦燥感が市場には漂っているが、毎年、ランドセルの在庫処分のアウトレットセールが行われていることからも分かるように、全てのランドセルがすぐ完売するわけではないようだ。

 

展示会でランドセルを探す意味

いつの世になっても、親、祖父母というものは子どもや孫に良いものを持たせたいというのは変わらぬ人情だろう。核家族化、少子高齢化が叫ばれてから、もう久しいが、「ラン活」で大人たちが右往左往するのも子どもたちにとっては、お金では買えない一つの忘れがたい暖かな家族の思い出になるのかもしれない。

もともと子どものランドセルを探すのに、いくつかの業者が一同に集まって、見比べられるとよいのにとの思いから展示会を始めたという安田氏は「今はネットでもランドセルは買うことは出来る。しかし、家族の皆で子どものためにランドセルを探すということが、とても幸せなこと。こういう場を提供するのが展示会を続ける理由だ」と語る。

子どもにとって「ランドセルを買う」という一生に一度のイベントは、その家族の素敵な思い出をプロデュースすることもできるのだ。もし、ランドセル業界が一体となり、その思い出作りを支えることを中心に据えて、思い出作り産業としてのビジョンを持って取り組めば、より一層魅力的な夢のある産業として更なる価値を生み出すことになるかもしれない。

ランドセルの価格を上げたり、抜け駆けして早く予約を得て利益を生み出すのではなく、昔ながらの伝統的な家族のぬくもりの価値観を再提案することで、現代の人々に共感を呼び起し、社会に貢献することができるのではないだろうか。