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健康に直接影響を与える5つの徳

古代医学の知恵  第 6 話

ある中年の心理学教授は、母親に対する数十年にわたる恨みを抱えていました。

彼は自分の感情が正当だと信じ、それをそのままにしていましたが、時が経つにつれ、その恨みが自分の中に染み込み、生活のあらゆる面に影響を及ぼしていることに気づきました。

精神面では慢性的な不安・うつ・不眠を経験しました。身体面では激しい胃痛と潰瘍を発症しました。症状は深刻になり、正常に食事ができず、ほとんどおかゆだけで生き延びる状態でした。彼は極端に痩せ、衰弱し、明らかに病弱に見えました。

私は彼に処方を出しました。恨みが浮かんだら毎回、心の中で「許す」という言葉を唱えるよう伝えたのです。

3日後、彼は「体内の恨みが溶けていくのを感じた」と言い、深い感情的な解放を経験しました。

唐代の著名な医師で「薬王」と称される孫思邈は、徳を根底とした治療法を確立しました。徳がなければ最も強力な薬でも癒すことはできず、徳ある生活様式こそが自然に癒すと信じていたのです。

私はよく患者さんに、中医学では「あなたが誰であるか」と「どれだけ健康であるか」は切り離せないと伝えています。中医学の視点では、習慣・感情・道徳的性格が常に全体的な健康を形作っていると見なされます。

さらに興味深いことに、中医学では主要な臓器それぞれが特定の徳を象徴しています。

臓器と徳のつながり

教授の病気の原因は、彼が抱えていた恨みでした。それが肝気の流れを停滞させていたのです。

中医学では、肝は「仁」(思いやり・慈しみ・他者への優しさ)と結びついています。

「思いやりある人は生命を愛し、大切にする」と、中国の歴史書『白虎通義』にあります。

肝は生命の活力・生成力を象徴しており、五行説によると「肝は木に属し、青く枝葉を茂らせる」とされています。

中医学では、肝の主な役割は全身の気(生命エネルギー)のスムーズな流れを確保することです。日常で思いやりを実践することは、肝の機能を自然に支え、心の安らぎを促します。

肝気が滞ると、不安や怒りを感じやすくなり、消化器系の問題も起こりやすくなります。

教授が母親に対して優しさと許しで接するようになると、肝気が再びスムーズに流れるようになりました。何年かぶりに、彼は心から高齢の母親と向き合うことができました。母親を避けるのではなく介護をするようになり、ふたりの関係はすっかり和らぎました。変化はそれだけにとどまりませんでした。健康は改善し、痛みは和らぎ、食欲が戻りました。

心の徳は「礼」(礼儀)であり、適切な行動・敬意・調和のとれた社会関係の基盤となるものです。中医学では、心は血液を循環させるだけでなく、精神と意識を意味する中国の概念「神」の宿る場所でもあります。礼儀という徳を身につけることは、心の機能を支え、内なる明晰さを育みます。

脾は「信」(誠実・信頼)に関連しています。

五行説によると、脾は土に属します。「土は万物を育み支え、偏りなく生命を育むという原理を体現する。これこそが誠実さの究極の表現である」と、歴史書には記されています。

中医学では、脾は栄養と消化を司り、思考と筋肉を統括します。誠実な人は思考と行動においてより強さと信頼性を持つとされています。

肺は「義」(正義・義理・手放すこと)を象徴します。

「義とは、決断力を持って判断することである」とあります。

肺は金に属し、勇気と洞察力を司る剣のようです。肺は臓器系として、呼吸・免疫系・さらには感情の取り込みと解放を調整します。

腎は「智」(知恵)と結びついています。

「智とは、迷いなく進み、迷いなく止まることである」とあります。

腎は水に属し、水も迷いなく前進します。腎は生命の根本を司り、精を蔵します。知恵を養う人は、より大きな生命力の蓄えと長寿を得ます。

一方で、負の感情や悪徳は気の流れを阻む身体的な緊張を生み出します。この阻害が臓器系で起こると、徐々にその機能を弱めてしまうことがあります。

例えば、思いやりは肝を強化しますが、怒りや恨みなど反対の感情はそれを乱します。溜まった感情は肝気を滞らせ、ストレスホルモンを増加させ、肝機能を損ないます。これが、教授の長期的な恨みがさまざまな症状を引き起こした理由です。

思いやりを育むことで、本来の優しく温かい心が表れ、肝の滞りを解消し、感情と身体の流れを促します。
 

日常でできる実践方法

穏やかな心は、体内状態を調和させる第一歩です。

微笑む

一番簡単なコツは、穏やかな笑顔で一日を始めることです。

興味深いことに、ある心理学者グループが登録済みの参加者を対象に実験を行いました。参加者の顔を軽く電気刺激することで、意識的に「努力」しなくても顔の筋肉に笑顔やしかめっ面を引き出すことに成功しました。

心理学者たちは、笑顔になるよう刺激を与えると参加者がより幸福で前向きな気持ちになり、しかめっ面になるよう刺激を与えると気分が落ち込むことを発見しました。筋肉の動きが大きいほど、気分の変化も大きくなります。

中医学では、微笑みは単なるポジティブな心構えの練習以上のものです。微笑みは顔の筋肉をリラックスさせ、顔は内臓に関連する経絡(エネルギー経路)と豊かにつながっています。そのため顔がリラックスすると、全身の気がよりスムーズに循環する助けになります。

微笑みは特に心と神に有益です。喜びは心の自然な感情だからです。優しく微笑むことで、心が感情状態を調整する主導権を握る助けになります。心が穏やかで安定していれば、五臓の機能はより大きな調和と協調に向かいます。

親切な行い

優しさと思いやりは、怒りや恨み・感情の停滞に対する自然な解毒剤です。徳ある生活を実践するもうひとつの方法は、日常的に親切な行いをすることです。親切な行いは心と精神を広げ、気の流れをよりスムーズにします。

ある研究では、高血圧の高齢者を自分自身のためにお金を使うグループと他人のためにお金を使うグループに分けました。その結果、他人のためにお金を使ったグループは血圧が著しく低下し、運動習慣を始めたり降圧剤を服用したりするのと同等の効果が得られました。

別の研究では、親切な行いが喜びや幸福感などの肯定的感情を高め、不安・罪悪感・悲しみなどの否定的感情を減少させることが示されています。スパなどのセルフケア活動はリラックス効果がありますが、他者を助ける行いほど幅広い肯定的感情を引き起こさないこともわかりました。

日記を書く

就寝前に日記を書くのもおすすめです。日記は停滞した感情を解放する助けになります。考えを書き留めることで、心はそれを繰り返し考え続ける必要がなくなり、反芻思考が減り、思考の堂々巡りが明確な処理へと変わります。

日記をつけることは、脾と心にとって特に有益です。過度の思考や心配は、両方を弱める可能性があるからです。

言葉を唱える

教授がしたように、特定の言葉を唱えることもできます。誰かに対する恨みが浮かぶたびに「許す」と唱えましょう。腹が立ちそうになったら、「思いやり」や「優しく」と唱えます。

徳を実践することはより広い恩恵をもたらし、生活様式を変えることができます。古来の知恵によれば、人の生活様式は人格を反映します。徳を培う人は、バランスの取れた食事を摂り、規則正しく眠り、刺激物を避け、節度ある行動をとる傾向が強いのです。

「故に養生する者は薬のみに頼るべきではない」と薬王・孫思邈は『備急千金要方』に記しています。「すべての行いにおいて徳を培うことが必要だ」とも記されています。「すべての徳を十分に実践すれば、薬がなくても長寿を得られる」とも書かれています。

(翻訳編集 日比野真吾)

Shu Rong
著者は、600年の歴史を持つ中医学の名門家系に生まれた中医師である。中医学と西洋医学の双方を学び、中国屈指の名門医科大学である同済医科大学附属病院において、責任医師として勤務した経歴を持つ。 現在は英国ケンブリッジで多くの患者が訪れる中医学クリニックを運営し、複雑な症状を抱える患者の根本的な回復を支えている。症状を一時的に抑えるのではなく、原因に働きかける「回復を促す医療」を理念とし、自然な方法による真の治癒への道を示している。 これまでに、ドバイ副首長をはじめ、世界各地の患者が「治らない」とされた病から回復するのを助けてきた。著者は、Shu Rong Herbalsの創設者でもある。