腸内細菌のバランスの乱れは、大腸がんのリスクを高める可能性がありますが、これは多くの人が見落としがちな健康上のリスクです。研究によると、腸内マイクロバイオームの健康は、大腸を守り、特に慢性的な炎症や細胞の損傷を防ぐうえで、きわめて重要な役割を果たしています。食事やライフスタイルを整えることで、腸内細菌の多様性を維持し、大腸がんのリスクを低減できる可能性があります。
アメリカ・トレド大学の腸内マイクロバイオーム研究者であるサチン・アリヤル氏は、エポックタイムズに対し、「腸内マイクロバイオームの健康を保つことは、大腸直腸がんのリスクを下げるのに役立ち、さらには予防や治療の効果を高める可能性もあります」と語っています。
幸いなことに、マイクロバイオームは不変のものではありません。日々の生活の中での選択やライフスタイルが、少しずつその状態を形作っているのです。
腸内細菌が毎日、大腸に与えている影響
「私たちは、腸内細菌がかつて考えられていた以上に重要であることを解明しつつあります」と、大腸直腸外科医であり、全大腸直腸がん連合の医療顧問を務めるセドレック・マクファーデン氏はエポックタイムズに語っています。
腸内細菌は、ただ静かにそこに存在しているわけではありません。毎日、大腸の粘膜や免疫系、炎症反応と直接相互作用しています。
この相互作用のバランスが崩れると、「ディスバイオーシス(腸内細菌の割合や種類が健康な状態から偏ること)」と呼ばれる状態になります。この状態になると、特定の細菌が慢性的で軽度の炎症環境を作り出したり、大腸の粘膜を刺激する物質を産生したりする可能性があります。マクファーデン氏によると、このような環境が長年にわたって続くと、大腸がんの発症につながる可能性があるとのことです。
大腸は腸内細菌やその代謝産物に直接さらされているため、大腸直腸がんは、他の多くのがんよりもマイクロバイオームの影響を受けやすいと考えられています。他のがんでは、マイクロバイオームがより間接的な形で作用する場合があります。
「大腸がんは、単一の細菌によって引き起こされるわけではありません」とマクファーデン氏は指摘します。「より重要なのは、腸内細菌全体のバランスと、大腸が日々どのような環境にさらされているかということです」
腸内細菌のバランスの乱れが長期化すると起こること――「リーキーガット」から細胞損傷へ
アメリカ・ペンシルベニア州立大学医科大学院の腸内マイクロバイオームおよび大腸がん研究者であるラズ・アブドゥルカディル氏はエポックタイムズに対し、ディスバイオーシスが長期間続くと、腸管のバリア機能がさらに損なわれる可能性があると語っています。これは、一部の研究者が「リーキーガット(腸細胞間のタイトジャンクションが緩み、細菌やその代謝産物が腸壁の深部へ侵入できるようになる現象)」と呼ぶ状態です。
このバリア機能が一度損なわれると、免疫系は外敵の侵入に対処しようとして、常に活性化した状態になります。
「その結果、炎症細胞から分子が放出され、『酸化ストレス(細胞のDNAが損傷しやすくなる状態)』が増大します。これによって大腸細胞のDNAが傷つき、異常な細胞が増殖する確率が高まる可能性があるのです」とアブドゥルカディル氏は述べています。
このメカニズムは、臨床で観察される「腸内細菌叢が異なる患者は、同じがん治療を受けても反応が大きく異なることがある」という現象の理由も説明してくれます。
大腸がんに関連するいくつかの菌
アリヤル氏によると、大腸直腸がんとの関連が、繰り返し研究で観察されている微生物がいくつか存在します。これらには、フソバクテリウム・ヌクレアタム、毒素産生性バクテロイデス・フラジリス、エンテロコッカス・フェカーリス、そして特定の大腸菌株などが含まれます。
なかでも最も注目を集めているのが、フソバクテリウム・ヌクレアタムです。この菌は、大腸直腸がん患者の体内、特に腫瘍組織において、健康な人よりも大幅に多く存在することが観察されています。特殊なタンパク質を介して腸粘膜に直接付着し、細胞のがん化に関連する変化を引き起こすとともに、腸内の強い炎症反応にも関係しています。その他の関連菌株も、それぞれ異なる経路を通じて炎症や腸細胞の健康に影響を与えており、現在も研究が進められています。
ただし、注意すべき点があります。アリヤル氏は、「これらの微生物の変化が大腸がんの本当の発生要因なのか、それとも腫瘍環境によって生じた結果にすぎないのかを突き止めるには、適切に設計された介入研究がまだ必要です」と強調しています。この区別は科学において非常に重要であり、関連性が観察されたことと、因果関係が証明されたことは同じではありません。
マイクロバイオームの影響は、「どのような菌が存在するか」だけでなく、それらの菌が「何をしているか」にもあります。菌が食べ物を分解した後に生じる代謝産物や、特定の菌が分泌する毒素は、大腸を守ることもあれば、損傷を悪化させることもあります。そのため、マイクロバイオームは、早期発見、予防、個別化がん治療の議論において、ますます重要な位置を占めるようになっています。
食卓から始める――食事は最も直接的なアプローチ
食事において最も重要なのは、腸内細菌の多様性を長期間にわたって維持できる食事パターン、特に食物繊維が豊富な食事を取り入れることです。
アリヤル氏によると、野菜や果物、発酵食品、プレバイオティクス(善玉菌の栄養源となる成分)やプロバイオティクスを含む食物繊維の豊富な食事は、より健康的な腸内細菌のバランスを保ち、腫瘍が発生しにくい腸内環境を作るのに役立つ可能性があります。
同氏は、特に地中海食を推奨しています。「地中海食は、全粒穀物、豆類、野菜、良質な脂質を重視しており、これらはまさに腸内細菌の多様性を保つために適した食材の組み合わせです」
プロバイオティクスは、大腸直腸がんのリスクを低減するのに役立つ可能性がありますが、利用する前にいくつか確認しておくべきことがあります。
よく研究されている菌の一つに、フェカリバクテリウムがあります。ただし、現在これを支持しているデータは主に動物実験によるものです。腸の炎症を抑え、腸壁を保護する可能性が示されているものの、人での確証を得るには、さらなる臨床研究が必要です。
特定のラクトバチルス属やビフィドバクテリウム属の菌株は、研究において、腸管バリアを強化し、健全な細胞の成長を助けることが観察されています。これは特に、大腸ポリープ(大腸粘膜上の小さな隆起で、一部はがんに進行する可能性があります)の既往歴がある人で確認されています。強調しておきたいのは、これらの効果は特定の菌株でのみ確認されており、市販されているすべてのプロバイオティクス製品に、そのまま当てはまるわけではないという点です。
アリヤル氏によると、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせて摂取する「シンバイオティクス」は、炎症を引き起こす物質を減らし、腫瘍が発生しにくい腸内環境を作るのに役立つ可能性があります。
プロバイオティクスの適切な摂取量や、適した菌株は人によって異なります。試す前には医師に相談し、ご自身に合ったものを選ぶことをお勧めします。
運動が腸内細菌にもたらす恩恵
アリヤル氏は、適度な運動を習慣づけることも、腸内マイクロバイオームを整えるうえで同様に重要であると述べています。「運動は、腸内細菌の多様性を高め、短鎖脂肪酸(腸内細菌が食物繊維を分解した際に生じる化合物で、大腸細胞に栄養を与え、炎症を抑える働きがあります)の生成を促し、炎症を減らします。これらはすべて、大腸の健康を保つのに役立ちます」
マクファーデン氏は、深く印象に残る言葉を残しています。
同氏によると、腸の健康を守ることは、それほど複雑に考える必要はないとのことです。「加工の少ない自然な食品を多く取り入れましょう。毎日の食事に少し食物繊維を加えてください。超加工食品はできるだけ控えましょう。さまざまなサプリメントや流行に、無理に飛びつく必要はありません」
同氏自身も、そのような生活を心がけています。バランスよく食べ、適度に体を動かし、十分な睡眠を取るようにしています。また、ストレスが体や腸に悪影響を与えることをよく理解しているため、ストレス管理にも気を配っています。
「私自身も完璧にできているわけではありませんし、患者さんに完璧を求めることもありません。ただ、普段の生活の大部分で、これらの習慣を維持できれば十分なのです」
よくある質問
Q:大腸を守るためには、どのプロバイオティクスを飲めばよいですか?
現在、研究で裏付けられているのは「特定の菌株」による効果であり、すべてのプロバイオティクス製品が同じように効果的であるわけではありません。選ぶ際は、単に「乳酸菌」といった一般的な名称だけでなく、具体的な菌株名が明記されている製品を選び、試す前に医師や管理栄養士に相談して、ご自身の状態に適しているか確認することをお勧めします。なお、現在、最も多くの研究で支持されている方法は、サプリメントに頼るのではなく、食物繊維の摂取量を増やすことです。
Q:食物繊維は結局どのくらい摂れば十分ですか? どの食べ物が効果的ですか?
研究では、単一の食材から摂取するよりも、多様な食材(野菜、果物、豆類、全粒穀物、オートミールなど)から食物繊維を摂る方が効果的であることが観察されています。現在、各国の保健機関が推奨する成人の標準摂取量は、1日あたり25~35gですが、多くの人の実際の摂取量は、これを大きく下回っています。まずは、毎食少しずつ野菜を増やしたり、精製された炭水化物を全粒穀物に置き換えたりすることから始めるのが、長く続けやすい方法です。
ご注意:本文は健康情報の提供を目的としたものであり、医師による診断や治療に代わるものではありません。大腸がんの家族歴がある人、胃腸に不快感がある人、治療中の人は、食事の変更、プロバイオティクスの摂取、運動習慣の変更を行う前に、必ず医師や管理栄養士にご相談ください。
(翻訳編集 解問)
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