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6月26日、水野温氏・日銀審議委員はロイターとのインタビューで、7月会合では情勢判断がこれまで以上に重要になると述べ、ゼロ金利解除に向けた議論を深める可能性を示唆した。写真は日銀本店ビル。3月撮影(2006年 ロイター/Toshiyuki Aizawa)

インタビュー:7月会合では情勢判断重要に=水野日銀審議委員

 水野温氏・日銀審議委員は26日、ロイターとのインタビューに応じ、7月13、14日に開かれる次回日銀金融政策決定会合では「物価・経済情勢の判断がこれまで以上に重要になる」と述べ、ゼロ金利解除に向けた議論を深める可能性を示唆した。世界的な株安は「いつまでも続く可能性は低く、ボラティリティも低下してくる」との見通しを示し、「株式市場の日々の動きに一喜一憂する必要はなく、7月以降の政策決定会合できちっと議論して行きたい」と述べた。

 経済・物価情勢は4月経済物価情勢の展望(展望リポート)の見通しに沿って推移しているものの、企業の設備投資計画は強く、リスク要因として挙げた「企業の投資行動の一段の積極化」が顕現化する可能性に言及した。

 インタビューの詳細は以下の通り。

 ──足元の経済・物価情勢をどのように分析しているか。先行きは。

 「現在、内需と外需、企業部門と家計部門のバランスがとれた形で回復を続けている。先行きも、物価安定のもとで息の長い拡大を続けるということに尽きる。4月末公表の展望リポートで示した経済・物価情勢の見通しとの関係では、現在はオン・ザ・トラックで推移しているとみている。ただし、経済情勢については、2006年度の設備投資計画を上方修正する企業も少なくなく、展望リポートで上振れ要因として指摘した『企業の投資行動の一段の積極化』が顕現化する可能性が高まってきた」

 ──先行きの経済を見る場合、どのような指標に注目しているか。

 「物価統計は政策判断の重要な指標だが、今後の金融政策運営は、総合判断で行うと説明している。データ次第であり、コアCPIインフレ率だけでなく、あらゆる経済・物価指標を注視することを意味する」

 「個人的には、労働市場関連の統計に注目している。景気回復の持続性をみるうえでは雇用・所得環境、物価のトレンドを見るうえでは賃金動向を注目している。また、想定外の景気上振れ要因として、住宅投資関連統計にも注目している」

 ──今後、ユニット・レーバー・コストが緩やかながら上昇、需給ギャップが需要超過になると、インフレ期待が高まってくる可能性はあるか。

 「最近の物価統計をみると、物価上昇率の上振れを意識する状況になってきた。5月の国内企業物価指数は前年同月比プラス3.3%と非常に強い数字になったほか、段々と川上から川下への価格転嫁の動きが進んでいることも読み取れる。また、1―3月期GDPでは、国内需要デフレーターも5四半期ぶりにプラスとなった」

 「物価の先行きを考えるにあたっては、潜在成長率の見通しを議論のベースに、2つのシナリオを想定している。潜在成長率を展望リポート通りプラス1.5―2.0%と想定したケースでは2006年度以降、景気回復は成熟局面に入るため、景気回復のモメンタムは鈍化する。もっとも内外需のバランスが取れた景気回復が続くがい然性が高いため、仮に景気回復の調整局面があっても、軽微にとどまる可能性が高い」

 「景気回復の成熟化に伴い、生産性上昇率は鈍化するため、ユニット・レーバー・コストは低下から緩やかな上昇傾向に転じる可能性が高まる。需給ギャップがゼロ近辺から需要超過に転化すると見込まれる中、インフレ期待は高まるため、2007年度に入ると賃金・物価上昇率が上振れする可能性があると判断している」

 「第二のシナリオは、生産性上昇率が高まり、潜在成長率がプラス2.0―2.5%まで一段と上振れすることを想定したケース。この場合、2006年度は景気回復のモメンタムは衰えず、1990年代の米国経済のように『高成長と低インフレ』が共存する理想的な景気回復局面が長期間にわたる可能性が出てくる。生産性の上昇はディスインフレ状況が持続する可能性を高めるが、いわゆる中立的な政策金利と足元の政策金利の水準のギャップが拡大した状況を放置する『ビハインド・ザ・カーブな金融政策運営』の度合いが強まる結果、資産価格インフレが発生するリスクが高まってくる。また、景気が上振れすることを通じたインフレ期待の高まりが懸念される」

 「第一のシナリオは、展望リポートの見通しとしてまとめられている内容に近く、がい然性が高いと思っている。一方、第二のシナリオも、個人的には十分あり得るため、こうしたシナリオも念頭に置く必要があるのではないかと思っている。いずれのシナリオにおいても、今年度以降、徐々に物価上昇率が高まっていくことが予想される」

 ──4月全国CPIはプラス0.5%となり、1―3月期と横ばいの伸び率を維持した。06年度は、展望リポートで示したCPIプラス0.6%から上振れる可能性は。

 「国内企業物価は上振れ判断、数字も上方修正する可能性が高い。消費者物価は基準年の変更がある。これをどう取り扱うかで変わってくるが、2000年基準なら、プラス0.6%は少し保守的かもしれない。年度平均では、展望リポートのプラス0.6%より少し高くなるかもしれない。ただより重要なのは2007年度にかけてのトレンドだ。あまり足元の数字に注目し、一喜一憂して欲しくない。2007年度は、もし景気が上振れ、潜在成長率が高まっているとの判断になれば、(2000年基準で見ると)想定よりも高くなるだろう」

 ──経済が順調に推移しているにもかかわらず、世界的な株安・商品市況下落など不安定な動きが出ている。この背景をどのように分析しているか。

 「ここ2カ月の大きなテーマだった。グローバルにマネー・フローの変化や資産価格のリプライシングが発生している。2つの要因があると考えている」

 「1つは、金融市場においてインフレ・リスクの下で持続的経済成長に対する不確実性が高まってきたと意識されたことが挙げられる。1990年代半ば以降、金融市場ではグローバルなディスインフレを前提として価格形成がされてきた。景気回復局面でもインフレ期待が抑制されてるという判断の下、中央銀行は大幅な金融引き締めに踏み切る必要はなく、ファイン・チューニングという政策運営をしてきた。しかし、世界経済は想定以上に強く、グローバリゼーションによる主要国のインフレ圧力抑制という図式にも限界が見えてきた。その中で主要国の中央銀行は、足元で高まってきたインフレ期待を抑制するするため、金融政策の正常化を進めているのが現状だ」

 「米国とユーロ圏のインフレ率は、FRBとECBがそれぞれ居心地の良いと考えている水準を上回っている。FRBは2年間政策金利を引上げてきた結果、中立金利水準に概ね達したのではないかとの議論されているが、今後、FRBが市場コンセンサスよりも大幅な金融引締めに踏み切る可能性や米国長期金利が急上昇することによってグロース・リセッションに陥る可能性がリスク・シナリオとして考えられる。もっとも米国の企業部門は健全であり、住宅投資の減速も想定の範囲内。個人的には、米国経済の懐は深く、引き続き軟着陸シナリオとなるがい然性が高いのではないかとみている」

 「グローバルにインフレ懸念が静かに広がる中、金融市場と中央銀行のハネムーン・ピリオドは終えんしつつあると言えるかもしれない。また、日米の金融政策運営は従来までのように、異例な予測可能性が極めて高い状況から、市場参加者から見れば、不確実性が高い状況に変わってきた。そうした中でリスク・フリー資産である主要国の国債に対するリスク・アセット、例えば主要国の社債や新興成長国の株価などに投資する際、リスク・プレミアムが上昇することが見込まれる。今回の調整は『リプライシング』という表現が適切だと思っている」

 「もうひとつは、行き過ぎた価格上昇に対する調整だ。健全なファンダメンタルズ及び緩和的な金融環境を背景に、2005年から2006年4月ごろまで、世界の投資マネーは株式、コモディティ、ハイ・イールド債など、リスク性の高い金融資産に向かった。こうした投資マネーの中で大きなプレゼンスを持ち始めているのは、年金ファンド、ヘッジファンド、ペトロ・マネー(産油国の資金)だ」

 「こうしたヘッジファンドの損失を受けて、過去の金融危機との連想から、当面の金融市場の動向を悲観的に予想する向きも見られるが、必ずしも当たっていない。5―6月の世界的な金融市場の混乱によって、一部の投資家が損失をこうむったことは確かだが、1990年代に比べ、市場参加者のリスク管理体制、ヘッジファンドに資金供給する金融機関の対応は格段に強化されている。ヘッジファンド・バブルと言われるほどヘッジファンドの運用金額は増えているが、金融機関の流動性供給に対する金融当局の監視体制が厳しいこともあり、レバレッジの程度は、10年前に比べかなり小さくなってきている。1998年のLTCMショックの再来という見方は悲観的過ぎる」

 「また、世界経済は好調を維持している。特に新興成長国については、大半が経常収支黒字国となり、保有する外貨準備は大幅に増加し、将来必要な資金を長期資金によってファイナンスできている。新興成長国の多くが経常収支赤字で、銀行を中心とする短期資金の流入によってファイナンスしていた1996―97年の東アジア通貨危機当時とは相当状況が違っている」

 「ここ2カ月の動きを達観すれば、足元の世界的な金融市場の不安定化は、1)期待リターンに比べリスク許容度が高すぎた反動、2)長期間にわたるブル相場の修正、と言える。主要国のリスクフリー資産に対するリスクプレミアムは、本来あるべき水準に戻る『生みの苦しみ』の過程と言える。主要国のみならず、一部の国を除き新興市場国のファンダメンタルズは良好と考えており、個人的には、世界的な株式相場の調整がいつまでも続く可能性は低く、ボラティリティも低下してくると見ている」

 ──株安は、日本の量的緩和解除により、過剰流動性が縮小した結果だとの指摘もある。

 「当座預金残高の引き下げと株安を直接結びつけて説明する向きもあるが、当座預金残高の引き下げテンポと株価の関係について直接的な影響はないと思っている。日本銀行が当座預金残高目標を30―35兆円程度に維持していた際、金融機関は日本銀行の期間の長いオペに応じることで長めの資金調達を行っており、ある意味市場運用を放棄していた側面がある。日銀の当座預金残高が減額されることは、民間金融機関は今まで当座預金残高に積んでいた資金をFB・TBなど短期国債や国債等の金融資産を購入する市場運用に振り向けることで、一定の資金収益を計上することを意味する。やや極端な言い方をすれば、量的緩和政策の解除によって市場金利に上昇圧力がかかる面はあるが、民間金融機関の市場運用が増えるため、金融市場にとってポジティブな面もあるといったことを強調したい」

 「日銀の超金融緩和政策の転換は、FRBに2年弱、ECBにも数カ月遅れており、政策金利は未だにゼロだ。量的緩和解除後の金融政策運営については、『経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に調整を行うことになる』と、当分の間、緩和的な金融環境を維持する姿勢を明確にしている。また、日々の金融市場調節においても、必要ならば即日オペで資金供給するなど、当座預金残高の削減を急がず、短期金融市場の安定に配慮した調節を心がけている。日銀の金融政策のハンドリングの悪さが、世界の金融市場を混乱させ、金融システムに強いストレスがかかっているとの指摘は的外れだと思っている」

 ──株安を受けて、金融市場では、日銀のゼロ金利解除観測が後退している。資産価格と金融政策との関係をどのように整理するか。

 「中央銀行は、長い目でみたマクロ経済の安定性という視点で、資産価格の発するシグナルをみていく必要がある。資産価格は、金融政策の目標ではないが、持続的な物価安定を通じて、経済の健全な発展に資するという政策目標を実現するために参考とすべき重要な情報変数のひとつと言える」

 「資産価格の発するシグナルをみていくうえで悩ましいのは、新興成長国や産油国による投資マネーの増加、投資適格国の不足、世界的な過剰貯蓄など、様々な構造的要因をどのように評価していくかという点だ。例えば5月の新興成長国の株価急落に絡めて言えば、これまでは新興成長国では、1)主要国の低金利政策、2)新興成長国のファンダメンタルズ改善、3)年金マネーの新興成長国への流入など、好循環にあったが、その歯車が逆転して、株式相場を中心に大幅な水準調整が発生した」

 「わが国の株式市場では、新興市場の一部で、個人投資家の株式売買の活発化、セミ・プロ投資家の信用取引の影響力の増大など、昨年末から今年1月初めにかけて局所的な株式バブルが発生していた可能性があると判断していた。5月以降のわが国の株式相場の低迷の一因は、1月初めにかけたオーバーシュートの反動という面があると思っているし、仮にこの見方が正しければ、経済ファンダメンタルズで説明がつかない株価の調整は、時間が解決してくれると割り切ることが可能だ」

 「今後、わが国における金利機能の復活は、国際市場間の資金移動をさらに加速させ、相場の「水準調整」の規模と期間を増幅させる可能性が高くなる可能性がある。日銀としては、株式市場のセンチメントに振り回されてはいけない。経済ファンダメンタルズと株式相場の関係について分析力を高めていく必要があると思っている」

 「他方、世界の中央銀行は、こうした金融市場の動向を受けた経済・物価情勢の変化に対して、着実に対応していこうと考えているようだ。FRBは6月第一週の段階で、6月28日・29日のFOMCで追加利上げの可能性が高いと市場で受け止められても良いような発言を行っている。FRBは議長交代後のクレディビリティ・テストを受けながら、利上げ継続の可否を検討している。そのほか6月に入ってから、ECB、韓国、デンマーク、南アフリカが利上げし、そして、世界同時株安の震源地ともいえるインドとトルコ、最近ではスイス、スェーデンも25bpの利上げに踏み切っている。ECBなど欧州主要国はインフレ懸念の抑制、インドとトルコは通貨安定が主目的だと思うが、それぞれの中央銀行が利上げに踏み切ったことにより、金融市場は中央銀行に対するクレディビリティを高めると思う。例えばインドの株式相場は利上げ直後の6月9日は反発したが、これは利上げが海外資本の流出に歯止めをかけた可能性を示唆している。クレディビリティがひとつのキーワードになっている」

 「わが国では、金融市場動向を眺めて、近い将来の金融政策運営へのインプリケーションが議論されることが多い。最近の株価急落について言えば、1)主因は、国内要因ではなく海外要因であること、2)実質金利はマイナスであり、極めて緩和的な金融環境は維持されていること、3)ファンダメンタルズに大きな変化はなく、見通しに沿っていること、4)大手監査法人に対する金融庁の処分を受けて、本邦企業の決算内容に対する信頼が低下したと判断した外国人投資家が日本株の利益確定売りに動いているが、その持続性は高くないと見込まれること―――などから、金融政策の基本的スタンスを変える必要性はないと思う」

 ──日銀にとってもクレディビリティテストか。

 「株価の動きから読み取れるものをどう判断しているかを示すことは重要だし、ファンダメンタルズ分析をして、ファンダメンタルズと株式市場のかい離が大きくないかどうかは、われわれもチェックする必要がある。その結果、ファンダメンタルズは変わってないと判断すれば、株式市場の日々の動きに一喜一憂する必要なく、来月以降の政策決定会合できちっと議論して行きたい」

 ──日銀がゼロ金利解除を行うことで、円高進行や再度の株安を引き起こす懸念はないか。世界のマネーの動きに影響を与える懸念は。

 「世界のマネー・フローの変化は、日本銀行の金融政策の正常化という個別の金融政策運営ではなく、5―6月にかけての世界的な金融市場の混乱の教訓として発生しているとみている。すなわちリスク性の高いアセット・クラスに投資する際、1)十分なリスク・プレミアムが上乗せされているか、2)投資対象のマーケットの流動性はどの程度高いか、3)市場参加者の顔ぶれはどうか、について従来以上に慎重な検討が加えられる結果、信用度・流動性の高い資産が相対的に選好されやすい環境に変化しつつあると思う」

 「米国経済は現在、景気循環のピークを過ぎたにもかかわらず、生産性上昇率が鈍化せずユニット・レーバー・コストが低位安定しているため、米国企業の利益の水準・伸びともに依然極めて高い」

 「FFレート先物を見ると、6月28・29日のFOMCでの25bpの追加利上げに加えて、8月の追加利上げも織り込みつつあるように見える。6月末に大方の予想通りに追加利上げが実施されても、FRBの金融政策運営の先行き不透明感が払しょくされるわけではなく、米国の株式・債券市場は不安定な状況が続く可能性がある」

 「もっとも、1)FRBの追加利上げ観測の高まりを受けて、円ドル相場が安定してきたこと、2)米国の企業収益が好調を維持していること─はポジティブなニュースだが、米国株式市場が『追加利上げはインフレ懸念の後退』と解釈して反発するか、『追加引き締め懸念の高まり』と解釈して米国株式相場の調整局面が続くかどうか、現時点ではわからない」

 「4月G7共同声明は外為市場でドル安が進行するリスクを内包しているとは言える。しかし、1)日米金利差が歴史的に拡大し、米国の金利先高観が払しょくできない中、対円でのドル売りで収益をあげるにはスピード感が不可欠で、投機筋はドル・ショートのポジションを膨らませにくいこと、2)わが国の実質政策金利はマイナスに転じていることに加え、慎重なペースで金融引き締めを行う意向を明確にしていることから、ゼロ金利解除によって円高/ドル安が加速する公算は低いと考えている。実際、円相場は、わが国の株式相場に底入れ感がみえ始めたにもかかわらず、足元で1ドル=116円台と2か月ぶりの円安/ドル高水準になっていることからも、米国の景気が比較的しっかりして、米金利の先高観がある限りは、日本の金融政策変更だけで為替が動くことはない」

 ──当座預金残高削減プロセスは終了したなか、良好なファンダメンタルズが続いており、ゼロ金利解除の環境は整ったと判断するか。水野審議委員も含め、6月は全政策委員がゼロ金利継続を支持した理由は。

 「6月の金融政策決定会合における議論は、議事要旨をご覧いただきたい。当預残削減プロセスは、6月中旬でほぼ終了したと言ってよい。ただ、当預削減プロセスが終了したことが即ち、ゼロ金利解除を意味するわけではないと総裁も言っているし、私もそう思う。経済のファンダメンタルズを入念にチェックしたうえで、ゼロ金利の解除を判断していくことになる。ただし、個人的には、短期金融市場の機能回復を量的緩和政策解除からゼロ金利解除までの重要なイシューとして考えている。その目標は達成できたとまではいえないが、メガバンクの影響力が大きくなるなど短期金融市場の構造が変化している中、資金の出し手と取り手の取引が徐々にではあるが、経済合理性に沿ったものになってきているなど機能回復は徐々に進んでいると感じる」

 「今後、短期金利が緩やかに上昇する過程で恐らく、短期金融市場やレポ市場で取引をすることで、一定の収益機会があるとの判断から、市場参加者が増え、市場機能が段階的に回復していく展開が想定される。もちろん市場機能を回復することを主目的にゼロ金利を解除すべきとは考えていないが、同時に、足元のコールレートやレポ・レートの不安定さを理由にゼロ金利をしばらく続ける必要があるとは考えていない」

 ──7月には6月調査日銀短観や展望リポート中間レビューがある。そこでファンダメンタルズのよさが確認できれば、ゼロ金利解除の議論を深めることができるか。

 「日銀は先般公表した『新たな金融政策運営の枠組み』において『中長期的な物価安定の理解』を念頭に置いた上で、経済・物価情勢についての2つの柱による点検を行い、これに基づいて金融政策運営の考え方を明らかにすることにした。世界の金融市場が想定外の大幅な調整を受けている現在、この基本スタンスに基づいて適切な金融政策運営を行うべきだと思う」

 「実際にゼロ金利を解除する環境が整ったかどうかの判断は、2つの柱に照らして点検することになる。第1の柱については、内外需のバランスが取れた持続性の高い景気拡大が続くという展望リポート公表時点の見通しをサポートしている。一方、確率は高くなくても発生した場合に生じるコストが小さくない第2の柱をアップデートすると、1)需給ギャップの水準がゼロ近傍にある中、株価・長期金利など資産価格の安定に配慮し過ぎる結果、金融政策面からの刺激効果が一段と強まる可能性、2)世界的な金融市場の不安定化が続き、株価下落の持続が消費者マインドの悪化や逆資産効果によって、可処分所得が改善しても個人消費の回復が芳しくない可能性─の2つが想定できる。しかし、両者を点検すると、少なくとも現時点では、どちらもがい然性は高いとはいえない」

 「個人的には、量的緩和解除─当座預金残高引き下げ─ゼロ金利─ゼロ金利解除というステップ全体が、量的緩和解除プロセスと理解している。今後は、経済・物価情勢を十分に点検しつつ、このプロセスを淡々と進めていくことが重要であると考えている。7月の金融政策決定会合での議論はあらかじめ申し上げられるものではないが、経済・物価情勢の判断がこれまで以上に重要になってくる」

 ──量的緩和解除からゼロ金利解除までが一連のプロセスということは、3月に量的緩和解除に踏み切った以上、その時に想定した通りに進んでいけば、ゼロ金利解除までは一連の流れの中でやるべきだということか。

 「基本的にそうだ。量的緩和解除したということは、総合判断で先行き景気、物価にある程度自信があると言ったわけだから、ゼロ金利を解除しない場合は想定外のことが起きたということになる。逆に言うと数カ月、一年以上ゼロ金利を続けることに対しては、説明が求められてしかるべきこと。量的緩和解除で予想される市場の反応も含めて想定してやっている」

 ──判断が遅れることによるリスクは高まっているか。

 「2つの解釈があると思う。われわれがファンダメンタルズから政策変更が適切だと判断したのに政策変更しなかった場合、これはクレディビリティの問題が出る。もう1つ、マーケットがそう判断してもわれわれが動かないとき、これは似ているようで実は違う。われわれがなぜこういう決定をしたのか、それがゼロ金利解除だろうがしっかり説明しないと、政策対応への信認が失われるので長期的なコストは大きい。説明責任の重要性は高まってきていると思う。株価に一喜一憂しないと先ほど言ったが、なぜそれが適切と思うのかも含めしっかり説明していかないといけない」

 ──ゼロ金利解除を行うと、市場は次の金融政策を織り込むが、解除の際の重要なメッセージは何か。

 「ゼロ金利を解除した後の金融政策運営は、基本的には、展望リポートにおいて『現時点では、無担保コールレートを概ねゼロ%とする期間の後も、極めて低い金利水準による緩和的な金融環境が当面維持される可能性が高いと判断している』、『そうしたプロセスを経ながら、経済・物価情勢の変化に応じて、徐々に金利水準水準の調整を行うことになると考えられる』とした精神を引き継ぐことになる」

 「ゼロ金利を解除する際のコミュニケーションポリシーで最も重要な点は、個人的には、1)連続利上げの思惑が強まらないようにする、2)今後の金融政策運営もデータディペンデント、フォワード・ルッキングな姿勢で行なう、3)短期金融市場および債券市場では、まだ低金利時代の残像が残っているため、予断を持って金融政策の正常化を進めるつもりはない、というメッセージを送ることが重要だ」

 「どうしても、FRBが毎回のFOMCで25bp、ECBも3カ月に1回くらいのペースでやっていたので、日銀も何かそういうリズム感をもってやっているのでは、予断をもって政策を行うのではと思われるが、そうではなくて、毎回毎回チェックしていく、実際そういう局面ではないかと思う。インフレに対して本当に心配しなくてはいけない局面が来るにしても、今年度より来年度以降だと思う。今年度については、1年前の展望リポートで余裕をもって対応できるという言葉使い、今度は除々に金利調整していることが出来ると言っているが、これはインフレの見通しが一番大きく背景にある。景気はしっかり、でも物価はなかなか上がりにくいという前提にそういう政策運営を考えている。局面を切り分けると、ゼロ金利解除までが量的緩和解除のプロセス。それから基本的に物価が安定し経済は持続的に回復している、これが今年度だと思うが、うまくいけば来年度は景気がもう一年回復するが、インフレ懸念に対するマーケットの期待が変わる可能性は十分ある。その時の対応は少し変わってくるような感じがする。今言えることは、来年度はまだわからないので、展望リポートに書いてあるように徐々にやっていくことに尽きると思う。今回ゼロ金利解除は、自分の頭の中では、そこまでとその後は切り分けて考えているので、そこは『ゆっくりとやる』という表現で言う人もいるが、私の表現で言えば、『毎回丁寧にやっていく、展望リポートに説明した精神を引き継いでいく』ということ」

 ──福井総裁の投資に対する批判、政府からの圧力について、政策への影響は。

 「総裁の資金拠出問題については先週までに総裁なりのけじめをつけられたのかなという理解をしている。武藤副総裁をトップとする検討委員会のなかで中央銀行の職務の公正性の確保のために必要な役員の金融取引に関する服務ルールと資産公開を見直すため作業を進めているところ。外部の有識者の意見も拝聴してきちんと検討されると聞いている。個人的には金融政策運営に集中したいと思っている」

(ロイター6月26日=東京)

 (06/06/27 06:48)  





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