【呉校長先生の随筆】 ー章くんの成長ー

【大紀元日本11月18日】章(あきら)くんは、我校の悩みの種。気性の激しい彼は、1年生のときから不登校や飲酒、喫煙を繰り返し、帰宅はいつも夜中の1時をまわる。彼のやんちゃぶりは、いつどこで何をやり出すのか全く分からない。

3週間前、私は初めて章くんと校門で顔を合わせた。茶髪をなびかせながらビーチサンダルを履き、手には学習カバンもない。私はだるそうに歩く彼に向って、「お早うございます。私は新任の校長の呉です。初めまして。君の名前は?」 と自己紹介をした。彼は「えっ」と少し驚いた後、(※)檳榔子(ビンロウジ)で黄色くなった歯を見せ、迷惑そうに「あきら」 と答えながら、私を横目で眺めた。

私は晴れやかな笑顔で、自分はこの口湖(コゥフー)地区の紳士だ、と話した。章くんは、この新任の校長が何を企んでいるのかと探りながらも、少し戸惑っている様子だった。とっさに私は、「2カ月後、君を紳士に変身させて見せます」 と言うと、頭を少し軽く下げて、颯爽とその場を去った。章くんが私を指しながら、「精神異常だ」という言葉を吐いたのが私に見えた。

3週間が経ち、章くんは靴を履くようになり、髪の毛も元の色に戻っていた。遅刻もほとんどせずに、学校へ来るようになった。しかし、依然として彼は喫煙、授業中の居眠り、夜遊びを止めず、しょっちゅう檳榔子をクチャクチャと噛んでいる。明らかに、章くんはまだまだ紳士には程遠い。

ある日、私は同じ方向へ行く章くんを私の車に乗せた。私はわざとかしこまって、「章様はどの先生の授業がお好きですか?」 と問いかけた。「何で様を使うの?」 と章くん。「これは紳士同士が使う言葉です。お互い紳士だから、君にはこの言葉を使うのです」 と教えた。章くんは納得し、「呉明姿(ウー・ミンジ)先生の歴史の授業が好きです」 と答えた。まさにこの時、私と章くんは接点を見つけたのだ。

ある日、章くんは放課後に公共の場で喫煙したため、警察に補導された。教頭は落胆を隠せなかったが、取りあえず穏やかに章くんと話しあおうとしていた。その時、歴史の呉明姿先生が通りかかった。呉先生が「どうしたの?」 と優しい声で問いかけると、章くんは急に涙にむせび、何も言えなくなってしまった。

「どうしたの」というこの5文字で、なぜ鉄でできた章くんの心を溶かすことができたのだろう?私は深く考え込んだ。教頭は、これがチャンスとばかりに章くんの肩を抱き、話し始めた。二人の声は低すぎて、何も聞こえない。ただ、きっと教育と指導に関係する話に違いないだろうと思った。

※檳榔子(ビンロウジ)
ヤシ科の植物で、チューンガムのように噛む嗜好品。

※呉雁門(ウー・イェンメン)
呉氏は2004年8月~2010年8月までの6年間、台湾雲林県口湖中学校の第12代校長を務めた。同校歴任校長の中で、最も長い任期。教育熱心で思いやりのある呉氏と子どもたちとの間に、たくさんの心温まるエピソードが生まれた。このシリーズで読者のみなさんに紹介する。

(翻訳編集・大原)