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【ショートストーリー】混沌の国の人々

文:清元

 【大紀元日本4月19日】ある所に「混沌の国」があった。その国の人々は、古典書籍にある通り、目も口も耳もなく真っ黒な顔をしており、どこか所在がなかったが、その歴史は信じられない程古くて、淵源を知ることができず、その文化は横に幅広く奥に深く、とてもその奥義をはかることのできる軽いものではなった。

 この国には大河が流れていた。非常に長大で、水量は信じられないほど多く、その流れは中流付近で急激に曲がりくねりつつ、ユッタリと流れ、その水は濁って、冷たくも暖かくもなかった。中央で曲がっているので、時たま氾濫をして民家を押し流し、一方では山から滋養のある土砂を運んでは土地を肥沃にするので、混沌の人々は「龍」と言って伏し拝んでいた。

 この国の不思議さを聞きつけた「英吉林」は、いち速くやってきて混沌の人々にこう言った。「君たちの言葉は非常に分りにくい。僕の言葉はすでに海を越えて大流行しているので、これを参考にして簡単にしてみたら?」

 混沌の国の人々は考えた。「確かにわれわれの文字は世界で一番難しい。いっそ簡単にしてしまえ」。すると、この文字を創ったそもそもの混沌の神々は怒り、全土から貴重品を引き上げ、混沌の人々を貧乏にしてしまった。

 次にこの国を訪れたのは「丹平急」という人々であった。「丹平急」は、混沌の人々にこう言った。「駄目だなぁ。君たちは、どこか所在なさげでやることなすこと遅くていけない。もっと直線的に水平直角に、もっと効率よくできないかなぁ」。

 混沌の国の人々は考えた。「確かにわたしたちは、緩慢で曲線的な思考方式だ。言われるように、もっと直線的で効率の良い考え方…そもそも混沌を開基して発想するのがいけないのかもしれない。混沌の神を捨てようかな」と迷いを生じた。

 「もしもし、君にいいものを教えてあげるよ」。迷いの生じた混沌の国の人々に声を掛けて来たのは「零人」という色の白い人であった。彼は、夏だというのに白クマの毛皮のコートを着て、口からは絶えず「赤い息」を吐いていた。

 零人は、「そもそも神なんていないのさ。物が全てなんだ。貧乏な人たちが立ち上がり、皆でものを作って皆で分ければいいじゃないか」と吹聴した。「あ~、なんでこんなに簡単なことに早くから気がついていなかったのだろう」と混沌の国の人々はこれに感謝し、先祖伝来の文化をきれいさっぱりと捨てて生活し始めた。

 すると程無くして、混沌の国の人々は自らに目と耳と口が備わったことを知った。しかし、その耳目は世の中の真実を見通す力はなく、口は自らの本懐を言うことのできないものであった。さらに、全身は常に赤く、発熱したようになり、自分が魂を失ったことを知った混沌の国の人々は、再度古くて新しい決意、「昔に戻らないといけない」と誓った。

 (08/04/19 11:14)  





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