乗客をハッピーに!

メルボルンの陽気な電車運転士

空は薄暗くどんよりとしていた。しとしとと霧雨が降り続く土曜日の朝、109号メルボルン港行きの電車乗客たちは、皆沈んだ表情だった。その時、車内アナウンスが流れた。「ご乗車の皆様、どうぞ、ご着席ください。進行中の電車は決してダンスの練習場所ではないですよ」。陽気な声が響き、乗客たちは爆笑する。声の主は運転士のブルース・ワリーさん(Bruce Whalley)。メルボルンで最も楽天的な電車の運転士である。

ワリーさんは61歳だが元気はつらつ。毎日、必ずズボンにサスペンダーと蝶ネクタイのいでたちで出勤する。勤め始めてから3年の間、乗客からの手紙や電子メール、ソーシャルネットワーク(SNS) に送られて来た感謝の言葉は数えきれない。六歳の男の子まで、入学の初日に自分が唯一持っている小遣い75セントを「僕の人生で最高の電車の旅」に捧げるというほどだ。

慌しい現代社会の中で、人々は交通機関を利用する際、往々にしてイヤホンで耳を塞ぎ、外の世界を遮ってしまう。しかし、ワリーさんの電車に乗ると、乗客は彼のジョークに連られて次第に表情が明るくなり、必ず笑顔で下車するという。

ワリーさんは、かつて金融業界に勤めていたが、5年前の交通事故が彼の人生を変えた。事故後運ばれた病院の検査で悪性の前立腺ガンが発見されたのだ。ワリーさんは、事故に遭わなければガンに気づくこともなく、半年後には亡くなっていたかもしれないと話す。しかし、彼はガンを即時に治療し、順調に病から立ち直った。このことがきっかけとなって、自分の人生を再び思い返したという。

彼はもっと沢山の人と触れ合い、楽しく仕事ができて、これまでと違う職業に就きたいといろいろ考えた末、電車の運転士に決めた。

ボックス・ヒル(Box Hill)区に多く集まる中国人の乗客とコミュニケーションを取るために、ワリーさんは懸命に勉強した中国語で乗客に挨拶する。彼は日本語やヒンズゥー語の挨拶ができるほか、韓国語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語などの挨拶も勉強中だという。電車がメルボルンの中心街に入ると、まるでツアーガイドのように町の文化や出来事をユーモラスに紹介する。

いつ引退するのかについて、ワリーさんは、楽しければずっとやり続けると話す。車内の乗客全員に笑いを届け、談笑が沸き上がることが何よりも嬉しいという。

「終着駅で、車中から雷のような拍手が鳴り響くことが、とても嬉しい。こうして人々と触れ合えることが幸せなんだ」

(翻訳編集・蘭因)