天国への手紙

【大紀元日本9月8日】イギリスのとある町に、フレッドという郵便局員がいた。彼は、住所不明やあて先の字がはっきりしない手紙でも、必ず目的地まで届けられるベテランだった。彼は毎日帰宅すると、妻にその日の出来事や発見した事などを喜んで話したものだった。そして夕食後は、パイプに火をつけてから、子供達の手をとって庭に出ると、お話をしてやるのが日課だった。その時のフレッドは、まるで、難事件を解決した名探偵のように楽しそうだった。

しかし、ある日、悲劇が彼を襲った。息子が急病で倒れ、病院へ運ばれたが、帰らぬ人となったのである。

それ以来、フレッドの心は死んだようになった。彼は毎朝、夢遊病者のように打ちひしがれ、元気のないまま出勤し、夕方帰宅してからは一言も発さずに夕食を済ませ、早々と就寝する。彼が毎晩、天井ばかり見つめていることは、妻だけが知っていた。家族がどんなに彼を慰めても、何の足しにもならなかった。

クリスマスが近づいたが、周りの楽しい雰囲気もフレッド一家の悲しみを取り除くことはできなかった。フレッドの娘マリアンは、今年の初めからずっと、弟と一緒にクリスマスを楽しみにしていたが、今は、クリスマスなんていらないと思っている。クリスマスになると、お父さんがますます弟のことを思い出し、悲しくなるからだ。

ある日、職場のデスクの上にブルーの封筒が置いてあった。封筒には「天国のおばあちゃんへ」と大きく書かれている。フレッドは、宛名を読みながら、この手紙は、ベルギーの名探偵ポローが来ても解決できないと首を横に振りながら、天国への手紙をデスクにしまい掛けたが、ふと彼にも何か手伝える事があるかもしれないと考えた。そこで、フレッドは手紙を開けて読み始めた。

「愛しいおばあちゃん、弟が死んだの。私もパパもママもとても悲しいわ。ママは、良い人が死んだら、天国へ行くのよと教えてくれた。だから、弟はきっとおばあちゃんと一緒にいるのよね。弟にはおもちゃはあるの?パパが悲しむから、私は、弟が乗って遊んでいた木馬も今は乗らなくなったの。積み木の遊びもしない。パパはいま、パイプも吸わなくなって、おしゃべりもしなくなった。私は、お話を聞くのが大好きだったけど、パパにお話をお願いすることも、なくなったの。ある日、ママがパパを慰めたけど、パパは神様しか自分を助けることができないと言っていたわ。おばあちゃん、神様はどこにいるの?私は絶対に神様を見つけて、パパを苦しみから解放してあげたい。パパがもう一度パイプでタバコを吸い、お話を聞かせてほしいの。孫:マリアン」。

この日、フレッドは仕事が終わると、早足で自宅へ向かった。彼は自宅の玄関に着き、ドアを開ける前に、ゆっくりとパイプを取り出し、タバコを詰め、火をつけた。それからドアを開けて中へ入った。彼を迎えた妻と娘に対し、以前のように微笑んで、タバコの煙をゆっくり吐き出した。久しぶりに家族を包むほのぼのとした雰囲気が再び戻ったのだ。