ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(6-2)

【大紀元日本7月7日】乾先生との対面後、私が青山墓地近くの柳麺屋で昼食を摂っていると、乾先生の書生「小森君」が顔面をパンダのようにしながら、店に駆け込んできた。聞くと、先生が「悶々会」に拉致されたという。悶々会は、ここ青山一帯でも、外国人女性を南島から騙して連れて来て、傘下のカラオケ店や風俗店に卸す、評判宜しからぬ芸能プロダクション「アオヤマ・エンジョイアブル・エンタープライズ㈱」をやっている暴力団だ。

私は龍紋会との一悶着で、この界隈一体の黒社会には精通してしまったので、さっそく「星条旗新聞社」近くにある雑居ビルの事務所にお邪魔することにした。「アオヤマ・エンジョイアブル・エンタープライズ」と書かれた看板を押して301号室に入ると、饐えた匂いがする。フィリピン人女性なのだろうか、特大ポスターに「南の歌声を日本全国に!」のキャッチフレーズが見える。部屋の中央には頭目らしき男が、パンダのように顔面を腫らした先生の二の腕を巻くり上げ、何やら得体の知れない液体を注射しようとしていた。事務所の奥の一室には、かすかに開いた扉から、肌の浅黒い外国人女性らしき者が、乳房も露に上半身を裸体にされて猿轡をカマサレ、後ろ手に縛られて椅子に拘束されているのが、かいま見える。

私が入るなり「・・・その老人を解放しろ・・」と言い放つと、その頭目らしき男は「・・・何者だ!・・どこのシマの者だ!」と凄んでくる。「・・・私は・・中国から来た張帰山だ・・なぜ、先生に用があるのだ!」と聞くと、その男は鼻でせせら笑いながら、「・・どうせ、蛇頭の若いもんか何かだろう・・・何が望みだ!北朝鮮製のアイスか?ロシア製のトカレフか?」と言うので、「そんなものは要らない!ただ先生を帰してほしいだけだ!なぜ先生を拘束する!?」と問い詰めると、「・・・どうせ、事務所からは生きて出られないんだ・・教えてやろう・・」と言いながら、窓辺に止まった鳩を一瞥した。

「・・実はな・・馬鹿縞学界のお偉い先生方がだ・・このオツムの妙に冴えた爺さんが気に入らないんだ・・」、「・・???どうしてだ、先生は有縁の方たちに無料で相談にのったり、交流しているだけだが・・」と私。「・・そのやり方、妙に小奇麗なスタイルがだ・・この万事金の資本主義社会にはそぐわない・・つまりは、営業妨害だとおっしゃっている。この爺さんの口から出る一言が、妙に的を得ているのも素直に頷けないという寸法だ・・だから、この爺さんのこの妙に冴えたオツムに薬でチョイト細工をさせてもらうのさ!分かったか?小僧!」と爬虫類的な眼差しで吼えると、私の周囲は瞬く間に十人余りの暴力団員で囲まれた。

「大人の社会はだ・・小僧!権威には利権が付物だ。・・日本人の精神が不安定な昨今、占い産業の売り上げは○○億円産業なんだ。それを侵害するものはだ・・死ぬしかないんだよ!」。私を囲む暴力団員らは、手に手に日本刀の大小だの、六輪だの、ヌンチャクだのと武装して今にも襲い掛からんと殺気立っている。「私はそんなものではタジロガナイ・・」と強がってはみたものの、明らかに旗色は悪い。肉体を気化して雲散霧消してしまえば、それまでなのだが、先生を残してそれはできない相談だ。

若い暴力団員たちが、武器を手にじりじりと間合いを詰めて来る。すでに事務所の中は陰惨な殺気で一杯になっている。私はちょっと思案した挙句に、室内の時間を急速に圧縮し始めた。これをやると、常人の頭の中では、時間の調節が利かなくなってくるので、こちらがユックリ動いても高速に見えて、ただ残像だけが脳裏に残るので、あたかも私が分身しているように見えてくる。やがて、暴力団員たちは、額から汗を滲ませながら、私の残像現象に悩まされ始め、「・・化け物だ!・・妖怪だ・・」などと口々に叫びながら、日本刀を無闇に振り回したり、拳銃をあらぬ方向に乱射し始めた。

数分して、彼らは同士討ちで全滅してしまった。その間、私は、先生の位置に気を使いながら、ユックリと室内を一周しただけだが・・・辺りは地獄絵図の惨状だ。例の頭目はと見ると、注射器を片手に固まっている。よく見ると、心臓に流れ弾が当たって即死状態だった。私は先生の縄を解くと、奥の小部屋にいた外国人女性も解放した。「・・・ワタシ・・カエル・・マニラカエル・・」と言うので、「・・う~ん、中国語を習って海南島か台湾に方向転換したら?同じ南の島だし・・」と忠言してあげた。私は、二人を金遁雲号にのせて事務所を後にし、外国人女性は入管職員の手に委ねた。

それからしばらく経って、この芸能プロダクションが閉鎖されたとの噂を風の便りで聞いたが、その後の消息はようとして知れない・・・この一件はすでに解決したが、私の胸中には何か割り切れないものが残った。「この国の易は・・いや世界の易は・・どこか何かがずれ始めている・・一部はすでに腐敗し始めている・・・」。