ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(8-3)

【大紀元日本8月6日】その時、屋敷内で数匹の猫の鳴き声が響き渡った。痘痕面の薮本は「む、む、おかしいな・・この屋敷にはドーベルマンを三頭も飼っているのに・・その殺気だけで猫など屋敷内には入れないはずなのだが・・」と顔をしかめると、太鼓もちがすかさず、「な~に、薮本先生、このヒートアイランドの熱気です・・大方猫も発情してお楽しみなのでしょう・・」と切り返す。

「それより先生。こっちの女性には、われわれの話が聞かれる心配はないのでしょうな・・」と酌の女性を指差す。「心配はいらん。ヘッドセットからミソチルだのSIMOPだのと若い女に人気のアーティストを聞かせているんだ・・大丈夫だろう」。酌の女性は、ますます曲に興じてきたのか、合わせて腰を振っている。 

「おい、御手洗・・例のミズタの石頭は、あれから来たか?」 「はい・・先日も例の件を認可してくれの一点張りでして・・書類審査が長引いてと誤魔化してペンディングにしてあります・・」 「いいか御手洗!よ~く覚えて置けよ。あんな虎水など絶対に認可しちゃならんぞ・・だいたい日本人から虫歯と眼鏡を取ったら、そんなもんは日本人じゃない!」 「わかっております・・虫歯は金のなる木・・でしょう?」 すると薮本は目を細め、「おい、例の奴をやれ!!終わった頃に平平小籠包が届くはずだ・・」。

すると、太鼓もちは、日の丸の扇子を取り出すと、奇妙な踊りを始めた。「~削って♪~叩いて♪~引っこ抜いて♪~保険点数荒稼ぎ~♪」 薮本はさも愉快だと言わんばかりに満ち足りた表情で、「あーははは!愉快至極!ところで御手洗!あっちの方にも手を回しておいただろうな・・だいたい地質学者だのという人種はだ・・平生で地べたなど研究しとる輩だ。頭が固くていかん・・やはり奴らを使わねば・・」と打診する。

「先生、タイガー・エンタープライズの奴らを使いました。先日、さっそく腕の立つもの二人を水田の所にやりました。今頃は仕事が終わっているはずです」などと言っている。私は、やおら障子を開けて、「その無頼漢なら、冷やし柳麺スープのダシになっているよ!」と叫ぶと、二人は鳩が豆鉄砲を食らったように一瞬凍り付いた。

薮本は我に返ると、「出会え~」と酔った調子で、私兵を招集しようとした。しかし、誰もやってこない。ふと廊下を見やると、何やら怪しげな白い煙に捲かれて、私兵どもは幸福そうな笑顔をうっすらと浮かべて寝入っている。ヒトマタタビの不可思議な効果だ。「おまえたちの話は全て聞いた・・もう終わりだな!」と宣言すると、薮本は逆上して、「鹿島大明神」掛け軸の掛かった床の間にある日本刀を抜いて斬り付けて来た。

それをハッシと如意棒で受け止めると、「ギ-ン!」と何やら今まで聞いたこともないような金属音が響いて・・「や・や・や!?面妖な!・・祖先伝来の業物の名刀が・・・」と、無残にも刃こぼれして飴のように曲がりくねった日本刀を手に、薮本は呆然としている。すると、ほどなくしてポトリ・・ポトリと門歯が抜け落ちた。「せ・・せ・・・先生・・かがみ・・」と太鼓もちが言うので、薮本はゆっくりと振り返った・・「うぅ・・うわぁー!!」 門歯が全て抜け落ち、白髪になった自分の面容を見て、自制心を喪失している。次々と、数匹の黒い虎が、薮本から出て行くのが見える。魔界の濁気が凝ったものだ。機会を見て、「それでは・・」と太鼓もちが逃げようとしたが、待ち構えていた猫の目女に、したたか顔面を引掻かれて昏倒してしまった。酌の女性は、御銚子をもったまま眼を剥いて凍りついている。

私が、あたりに祓いを掛けて一仕事を終え、薮本の屋敷を立ち去ろうとすると、猫の目女から茶色のクッキーのようなものを手渡された。「うぅ、何だこれは!?塩辛いし、生臭い菓子だな・・」 すると猫の目女は、顔面を摺るような動作をして、「イリコ・クッキーよ!とっても歯にはいいんだにゃ~ん!」 「売れないよ!こんなもの・・第一生臭いしね・・」 「ヒトマタタビと一緒で非売品だにゃ~」。

それから数日後、くだんの珍来軒のTVから、「~♪暑い夏には、やっぱり~美藤園のタイガー・ウォータ~♪」という歌が流れてきた。画面には、美しい歯が眩しい女性アイドルが、豹柄のビキニを着て、海辺で虎水をゴクゴクと飲んでいる。これで、日本人も虫歯から永遠に解放されるだろう・・・