ファンタジー:個人タクシー「金遁雲」の冒険独白(9-2)

【大紀元日本8月19日】ほどなくして信濃町のKO病院前についた。若い女の方が「メーターが元なので分からないのですが・・・おいくらでしょうか?」と聞くので、「・・受け取れません!!」と応えると、女は「・・よろしくお願いします」と平身低頭して、男と一緒に後部座席から転げ落ちるようにして下車していった。発進するとバックミラー越しに、二人がこちらにいつまでもお辞儀をしているのが見える。「・・これはマズイことになった」・・・

助手席の猫の目女は、無言の圧力を掛け続けている。もうやるしかなさそうだ。「あ~あ~やりますよ!やればいいんでしょ!お盆も近いことだしね!・・三途の川でも何でも行きますよ!」と応えると、「にゃんとも~男らしい人だにゃ~・・でも行ってもらいたいのは、三途の川ではなくて、寿老人桃園なんだにゃ~」などと言っている。「君は日本の妖怪だから知らないだろうけど・・中国でも成功したのは滅多に聞かない。先輩でも呂洞賓さんとか、済佛さんとか、天才肌の人たち、それも一握りの先達だけだ・・そんなこと僕にできるかどうか、成功するかどうかも危ういが・・」。

言った手前、もうやるしかないと追い詰められた私は、外苑内の舗道で猫の目女を下ろし、金遁雲号の車窓にスモークを張って静かに瞑目した。「もうやるしかない」・・自らの元神を自分の功柱沿いに上昇させる・・・私自身の功柱は、既に三界を出ているので、容易に寿老人の世界まで到達できるはずなのであるが、その美しさに目を奪われると、魂自体が肉体から外れ、原因不明の即死状態になるので、非常に危険な神業だ。

現世界時間で3~4分位経った頃だろうか?私は、容易に人間世界の寿命を管理するところの寿老人神世界に到達できた。ちょうどこちらの世界で言えば、ディズニーランドのような色彩豊かな世界だ。気候は常に温暖で、夜といえば白夜の程度だけで、いつも明るいのだが、太陽が見当たらないのが不思議だ。ふと見ると、少し離れた所に、ちょうどたわわに桃が実った神桃園が見えた。「しめしめ、誰もいないようだ。そうそうに一個失敬して、現世界に帰ればいいや・・そうすれば、面倒くさい神様との折衝もいらないや・・」そう思った私は、さっそく桃園に近付いた。

すると「コツ」と何やら小石のようなものが頭にぶつかった。気のせいだろうか・・するとまた「コツ」また「コツ」と・・見ると、何やら小さな珠が飛んできているようだ。桃の樹の陰に何かが見える。仙童子だ。こちらをパチンコのようなもので狙っては、樹の陰に隠れたりして、それが何人もいる。「いけないんだ~桃仙女様の桃を勝手にとっちゃいけないんだ~」とか言い出した。「ほら、丹で煉った飴だよ・・いい児だから、騒がないでほしいんだな~」と言っても聞かない。「いけないんだ~いけないんだ~」の大合唱になってしまった。

「なんですか!騒がしい!」とこの声を聞きつけて、桃園の奥から、それはコウゴウしい程に美しい仙女が現れた。「いや~ちょっと、この神界を通り掛った元神の垂直旅行者なんですが、喉が渇きまして、こんなにあるんですから一個ぐらいいいかなっと・・」などと、私は苦しい言い訳をした。すると仙女はますます不機嫌になって、「この大馬鹿者!この桃一個は、大振りのもので現世界の人間の寿命○○年に相当するのです!この桃自体が一個の天機なのです!」と言って益々激してきた。

私が辻褄の合わないアヤフヤな説明をしている内に、桃園の奥から13-4歳ぐらいに見える、これまた美しい仙女がもう一尊お出ましになって、何やらこの桃仙女に耳打ちしている。すると仙女は眉間に皺を寄せて、ますます深刻な表情になり「この中国神仙界の禁治産者!!・・・おまえ!玉帝様のお尋ね者じゃないか!・・どうしてこの寿老人神界までやって来た!?猪!出て来なさい!」とヒステリックに叫んだ。

すると、桃園の森の奥から「ブヒ~ブヒ~」とケタタマシイ叫び声とともに豚のような人、いや人のような豚が二足歩行で出てきた。「猪!・・さぁ餌だよ!食べておしまい!」と仙女が命ずると、この豚男は鼻を鳴らしながら、「こっちの世界は、野菜とフルーツばっかりで、もう少しで菜食主義になるところだった・・ブヒ~・・やっと肉にありつけるブヒ!ブヒ!」と言って、臭い息を吐きながら近付いてきた。「・・おまえは人か?サルか?・・まぁどっちでもいいブヒ!生で食うから・・ブヒ・・」。