チベットの光 (80) ラティンバの帰郷

【大紀元日本12月27日】ある夜、ラティンバがロウォロタ寺で修行していると、チューバ地方がまばゆいばかりの光に包まれているのが見えた。彼が目を凝らして見ると、山中でさんさんと光を放つ水晶宝塔が出現しており、その宝塔の傍らには無数の空行と天神たちが控え、あの世との行き来をしていた。天神と空行の歌声は、天の雲間に響き渡り、天と地は七彩の供養雲に覆われていた。地上では、ミラレパ尊者の弟子たちとその施主たちが敬虔な祈りをささげていた。

 ラティンバは、すぐさまひざまずき、宝塔に拝礼した。すると突然、尊者の顔が宝塔の中から出現し、優しくラティンバに語りかけた。

 「おまえは私の話を聞いて、すぐに帰ってこないが、もしもう一度師弟として会えるのなら、私は大変嬉しいよ。これからは、われわれ師弟はもう会うこともできないだろうから、この機運を逃がさないようにしておくれ。またつもる話でもしようじゃないか」

 尊者は言い終えると、手をラティンバの頭の上に置いて、やさしく微笑んだ。ラティンバはこのとき、嬉しくもあり、哀しくもあり、師父の無限の慈悲に包まれて、未曾有の信心と言い知れない殊勝な気持ちが心の中に沸き起こった。

 ラティンバはこの柔らかな慈悲の光の中で目が覚めた。彼は、尊者がいつの日か戻らなくてはならないと言っていたことを思い出した。「果たして、尊者は涅槃に入られたのでは・・・」彼はしばしの間、悲しみがやまず、いまわの際に間に合わなかったことが心苦しく、尊者に対して心からの祈りを捧げた。

 「先生、戻ることができず、大変後悔しています。今、急いで帰ります」。ラティンバが祈りを捧げていると、突如空中から二人の少女が現れた。

 「ラティンバ!尊者はもう浄土世界に旅立とうとしています。急がないと、もう今生では尊者に会えなくなります。さあ急ぐのです」

 このとき、夜が明けて空の星もかすかになり、ラティンバは身支度を整えてすぐに帰郷への途についた。彼は一心に師父へ祈りを捧げ、心気を集中させて、一心不乱にチューバ地方をめざした。すぐにティンリ地方とプリン地方の中間地点にある、ボサイ山の山頂に到達した。それは驢馬で二ヶ月かかる旅程だったが、一朝もかからないうちに走破したのであった。

 このとき、夜が完全に明けて、太陽が燦燦と昇ってきた。彼が座って休息していると、いたるところに大きな五色の雲がかかっているのが見えた。さらに、尊者が涅槃に入った山の上には、さらに長大な七色の雲傘が覆いかぶさり、ここから金色の光が発せられていた。無数の天神と空行が、天上の最も良い品を携えて供養の儀式を執り行っている。

 ある神たちは祈り、ある神たちは発願し、ある神たちは礼拝し、またある神たちは歌っていた。壮大な光景を目にしたラティンバは、心中悲喜が交錯した。彼には、尊者が涅槃に入ったことがまだ信じられず、ある神に尋ねた。

 「あなたたちは、なぜこのような盛大な儀式や殊勝な供養を執り行っているのですか?」

 「君ははたして耳が聞こえないのか、はたまた目が見えないのか。このように多くの天人たちが、かくも盛大な儀式を執り行っているのが、なぜだか君にはまだわからないのか。これは、ミラ喜笑金剛大士が浄土に行かれるから、天上と人間、あらゆる天神たちが、彼を供養して祈祷しているのだ。それがまだ分からないのか」

(続く)
 

(翻訳編集・武蔵)