【佛家故事】 輪廻転生(一) ー恩讐を取り違えるー

舍衛国(古代インドのコーサラ国にあった首都)に、あるバラモン教の信者がいた。彼は裕福だったが、ケチで貪欲な心の持ち主で、食事の時はいつも門戸をきつく閉ざしていた。

 ある日、この信者は鶏を絞めてご馳走を作った。信者は家族と共に晩餐を楽しみ、特に子供にはたくさんの肉を分けてやった。

 仏陀はこの信者を救い済度すべき時期がきたことを知り、沙門(出家修行者)に変身してその信者の前に現れた。信者は仏陀を見て怒鳴り散らした。「厚顔な出家者よ、なぜ俺の前にいるのだ?」沙門は静かに答えた。「貴方こそ愚かです。父親を殺し、母親と結婚し、怨讐を取り違えています。私を厚顔であると言えるのでしょうか」

 信者は沙門が言っている意味が分からず、理由を聞いた。沙門は次のように答えた。「食卓の上にある鶏は、貴方の前世の父親です。彼は、ケチで貪欲であるが故に、鶏に堕落してしまいました。この子供は以前、羅刹(大力で足が速く、人を食うといわれる悪鬼)で、幾度もの前世で貴方を殺しましたが、業力がまだ残っているため、将来、貴方を殺すためにまた転生して来ました。貴方の妻は、貴方の前世の母親で、仲が非常に睦まじかったので、今世は貴方の妻になりました。俗人はこのような輪廻を知らず、出家者だけがはっきりと分かっています」。仏陀は神通力で、信者に彼自身の前世を見せた。信者は驚き、その場で悟り、懺悔し、受戒しようとした。そこで仏陀は信者の為に法を説き、彼を仏門に受け入れた。彼は後に「須陀洹果」(煩悩を脱して聖者の境地に入った位)を得たという。

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 周氏は次のように言う。「都提の父親は息子の家に犬として生まれ、皿の中の食べ物を盗んで食べてしまった。旃檀(せんだん)の父親は息子の家の前で乞食として生まれ、門番に骨が折れるほど腕を打たれた。前世の因縁関係が分かる人にとっては、驚きおびえることでもなく、世の中ではありふれたことです。そのため、全ての生き物を殺してはなりません」

清・周思仁の『安士全書』より

 

 

(翻訳編集・李正賢)