薬用植物 ユリ

ユリ(百合)はユリ属の多年草で、園芸植物として多くの品種が植えられています。美しい花を観賞するだけでなく、一部品種の鱗茎(りんけい)は食用、薬用にもなります。

日本ではヤマユリ、コオニユリ、オニユリの鱗茎が、中国ではハカタユリ、イトハユリ、オニユリの鱗茎が食用として栽培されています。生の鱗茎はユリ根と呼ばれ、鱗茎を乾燥させたものは百合干と呼ばれます。百合干は水でもどして炒め物にしたり、すりおろしてスープにとろみをつけるために使用したり、澱粉の原料として用いられています。

薬になるのはオニユリ、ハカタユリなどの鱗茎を乾燥させたもので、生薬として用いる場合は「ユリ」ではなく「百合(びゃくごう)」と読みます。滋養強壮、利尿、鎮咳などに効果があり、保険適応の辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)という漢方にも配合されています。

約2千年前に中国で編集された『神農本草経』にはすでに、「百合」という生薬の記載があります。『神農本草経』によると、百合には気力を補い、胃腸機能を整える作用があり、邪気による腹張、心痛、便秘、小便不利などに効果があります。

現在の中国伝統医学では肺の潤い不足や気管支の乾燥からくる咳嗽、咽痛、喀血などに用いられる他、発熱性疾患の回復期において、身体に熱が残っていることによる煩躁、動悸、不眠、多夢にも用いられます。

秋は気管支が乾燥しやすい季節です。この時季の養生法として、ユリ根を蒸したり茹でたりして食べると、咽喉の乾燥や咳、声のかすれ、胸苦しさ、便秘、皮膚の乾燥などに効果があります

(吉本 悟)