≪医山夜話≫ (59)

7枚の銅貨

これは私の祖父が自ら経験した本当の出来事です。

 私の祖父は地元の有名な医者でした。ある日、村民に呼ばれて、祖父はその夜すぐ船に乗って往診に出掛けました。夜が明ける前に船は現地に着きましたが、患者とその家族を邪魔しないように、祖父は真っ暗な中で岸辺に座り、居眠りをしながら夜明けを待っていました。

 すると間もなく、2人の子供の会話がを祖父の耳に入ってきました。

 「もういいじゃない、彼女から借金を取り戻すなんて、止めましょうよ。何を言っても、あの人あなたのお母さんよ」

 「そんなの駄目だよ。『実の兄弟の間でも金銭をはっきり計算するべし』っていうだろう。僕に借りがあれば当然返してもらうよ。少しでも足りなかったら駄目だ」

 「お母さんは一体あなたからどれくらい借りたの?」

 「銅貨7枚さ」

 「どうやって返してもらうの」

 「僕には方法がある。見ていてごらん」

 祖父は突然目を覚ましました。自分はずっと居眠りをしていたけれど、2人の子供の会話がとてもはっきりと聞こえました。あたりを見回しても、一軒の家も見当たらなかったのですが、どこから来た子供たちなのでしょうか。 不思議に思った祖父は、もう一度周囲を見回すと、自分がいくつかのの間に座っていることに気がつきました。近くに一基の新しいお墓がありました。土がまだ少し湿気ているので、作って間もないようです。

 祖父は少し怖くなりました。その時、空がぼんやりと白む中に、ふと一人の若い女性が歩いてきます。彼女は頭に頭巾をかぶり、腰に美しい青い模様のエプロンを締め、手にはかごを提げていました。近づくと、彼女の髪につけた白い小さな花とその悲しい表情が祖父に見えました。彼女はあの新しいお墓に行き、ろうそくと線香を墓の前に供えて、かごからご飯と何枚かの小皿料理を取り出しました。そして、泣きながら「息子よ、こんなに幼い年でもう黄泉へ行った我が子よ。近所の子供を見たら、私はいつもあなたを思い出すのよ。息子よ、私の心はとても苦しくて…聞こえたら母に一言答えてくれませんか……」とお墓に話しかけました。

 彼女が泣きながら訴えるのを聞き、息子を亡くしたこの若い母親の悲しみに祖父は胸を痛めました。

 突然、彼女のエプロンにろうそくの炎が燃え移りました。彼女は急いで火を叩き消しましたが、美しい青い模様のエプロンの角は焼けてしまいました。彼女は泣きながら、「これは昨日、7枚の銅貨で買ったばかりの新しいエプロンなのに」と愚痴をこぼしました。

 祖父は唖然としました。息子は、彼女に借した7枚の銅貨を、このようにして取り戻したのです。

(翻訳編集・陳櫻華)≪医山夜話≫ (59)より