【医学古今】陰陽で考える

火傷の手当て 古今の違い

熱湯をこぼす、調理中の油が飛ぶ、使用中のアイロンに触る…。日常生活には、火傷を負うリスクがそこかしこに潜んでいます。現代では、火傷を負った時はまず水や氷で冷やすのが常識とされています。しかし、漢方医学の古典には、火傷の際に患部を冷やすことは「禁忌」であると記載されています。

中国唐代の有名な医学者、孫思邈(そんしばく)著の『備急千金要方』に、次のような記載があります。「火傷を負った時は決して冷水で洗ってはいけない。火傷した患部を冷やしてしまうと、熱が身体に深く侵入して筋骨を傷め、治りにくくなる」

また、明代の宮廷医者、龔信(きょうしん)が著した『古今醫鑑』にも「火傷を負った時はすぐに塩と米酢を調合して患部に塗り付ける。 その後、酢泥(酢と黄土を混ぜたもの)を塗り付けると、痛みが緩和する。さらに生地黄をすり潰して酢を混ぜたものを塗り付ければ、次第に痛みが止む。冷水や冷泥などを用いて手当をしてしまうと冷気によって熱気が深く身体に押し込まれ、筋骨を傷めることになる。くれぐれも気をつけるべきである」と記されている。

現代人の「火傷はまず冷やす」という考え方と、古代人の「火傷は冷やすべきではない」という考え方とでは、どちらが合理的なのでしょうか。私はどちらかと言うと、古代人の考え方を支持しています。陰陽原理では、陰と陽は互いに排斥する特性があり、表面にある火傷の熱(陽)は、冷たい水(陰)に当たると身体の奥へと逃げてしまうので、結果的に火傷の傷を深めてしまう恐れがあるからです。

現代社会において、陰陽の原理を用いて物事を考える人は、ほとんどいなくなりました。しかし、私は、現代科学の理論に慣れ親しんでいる私たちが、実は陰陽の原理を見落としているに過ぎないのだと思っています。陰陽の原理を無視した生活が多くの生活習慣病を発生させており、それもまた現代社会の現実なのです。

(医学博士・甄 立学)