「決して恨まない」自分をはねたドライバーを赦した男性(1)

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人は時に、神様から難しい課題を与えられます。自分を苦しませた人を、許せるかどうかという問題です。交通事故から生還し、奇跡的な回復を遂げたジーン・ピエールさんが、その答えのヒントを与えてくれるでしょう。

イギリス在住のピエールさんがコーチングの職に就いたのは25歳の時。コミュニケーションを通じて、相手の自己実現や目標達成を助ける仕事です。10年で彼は有名な講師となり、執筆活動や講演会のために、世界中を飛び回る生活が続きました。

事故で人生が一転

2019年、自転車に乗っていたピエールさんは猛スピードの車に前方からはねられ、瀕死の重傷を負いました。サイクリストたちが10日間で1000マイル(約1600キロ)走るという、脳腫瘍患者を助けるための募金イベントでの出来事でした。酒に酔っていたドライバーはピエールさんを置き去りにし、そのまま逃走しました。

ピエールさんには、事故当時の記憶が全くありません。気づいた時は集中治療室のベッドの上でした。医師は「助かったのは奇跡だ」と言ったそうです。

(入院中のピエールさんの画像はこちらから)

ピエールさんは、「これは神様のメッセージだ」と思いました。「人生を一変させる経験を与えよう。でも心配するな、お前はそれを覚えていないから」と言われたように感じたのです。

意識を取り戻したものの、彼は全く動けませんでした。足と腕の骨折、右肺の挫傷、心臓と腸の損傷という大けがを負っていたのです。

不思議なことに、彼の心には一種の感謝の気持ちが広がっていました。他人を責めるのではなく、この経験から何を学び、人に与えることができるかを考えたのです。逆境の中でもポジティブでいられたのは、彼の専門であるコーチングのおかげでした。

回復への道のり

事故はピエールさんに道標を与えてくれました。自分の経験を生かして、多くの人を助けるという目標です。身動きが取れないのは苦痛でしたが、誰も恨まないと決めました。自分を被害者だと思わないよう心がけたのです。

「大事なのは、ドライバーを恨まないことでした」と話すピエールさん。

人は、自分の不幸を周りのせいだと思いがちです。「夫が、妻が、パートナーが、ドライバーが…」と周りを非難し続ければ切りがありません。

ピエールさんによると、それは「自分のエネルギーを浪費する」行為であり、「人を責めてエネルギーを使い果たし、自分が疲れ果てるだけだ」といいます。

愚痴や恨みごとのかわりに、彼は心の中で4つの目標を掲げました。

一つは、絶対に自分を被害者だと思わないこと。二つめは、自分の回復を助けてくれる、ポジティブな人々に囲まれること。妻を始め、なるべくインスピレーションを与えてくれる友人や家族と過ごすようにしました。それが彼のリハビリに必要なパワーを与え、回復の原動力になったそうです。「自分を憐れむ人には近づかなかった」とピエールさん。

三つ目は、この回復の道には「意味」があると思うこと。四つ目は、ポジティブな方に心を向けること。彼は自分が「できない事」ではなく、「できる事」を意識しました。身体は動かせないけれど、今できる事は何か。足首を少しでも動かせたら、それも前進です。ほんの少しでも、その日の回復は祝うべきポジティブな出来事となったのです。

前進があるたびに、彼の心には「感謝の念が広がった」といいます。初めて座った時、立ち上がった時、松葉づえで歩いた時、階段を降りた時。事故から1年半、彼は初めて走れるようになりました。

「自分は長い旅路の途中にいると感じます。目標に少しでも近づいているという感覚は、とても気持ちのいいものです」

もちろん、回復の道のりは常に順風満帆という訳ではありません。時には苦しい日が続く時もありました。

そんな時、彼は自分の習慣に集中することにしました。瞑想すること、日記をつけること、身体を動かすこと、周りの人に感謝すること。それは彼にとって、厳しいリハビリを耐え抜くための「神聖な儀式」だったのです。

(次項へ続く)

(翻訳編集・郭丹丹)