記憶の神秘 (幼児期の記憶が無くなるのはなぜ?)【未解決ミステリー】

あなたは、初めて口を開いたときのことを覚えていますか?

初めて口にした大人の食べ物は?

幼稚園の登園初日のことをまだ覚えていますか?

おそらくほとんどの人は幼い頃のことを覚えていないでしょう。

人は3歳から物覚えすると言われていますが、1893年、心理学者のキャロライン・マイルズは「赤ちゃんは記憶を失う」という現象を提唱しました。

現在の科学の認識では、私たちの記憶は神経細胞と神経細胞の間、20ナノメートルほどの「すき間」(シナプス間隙)に蓄えられているといいます。神経細胞は脳内のあらゆる場所に存在するため、記憶の痕跡は脳内に広く分布しています。 中でも海馬は、長期記憶と短期記憶を管理しています。私たちの失われた幼少期の記憶は、長期記憶の一種で、海馬が担っています。

では、この記憶喪失は、幼児期に海馬がうまく発達していなかったために、物事を覚えられなくなったから生じるというのは、本当なのでしょうか?  
いいえ!アメリカ、エモリー大学の心理学者、パトリシア・バウアー博士(1957~)によるとそうではないというのです。
 

海馬-記憶が消える場所

バウアー博士が率いる研究チームは3歳の子どもを選び、6年間かけてその記憶を追跡調査しました。その結果、3歳頃の記憶に対し、子どもたちが5~7歳の頃は、60%以上の出来事を覚えていることがわかりました。しかし、8歳、9歳になると、40%以下しか覚えていないことも判明しました。 特質すべきこの実験から、私たちは子どもの頃の記憶を持っていますが、大人になるにつれてその記憶が曖昧になっていくことがわかります。

一方、日本では、産婦人科の池川明先生は、3千人以上の子どもたちから「生まれる前の記憶」を聴き取りしました。この調査では、21%の子どもが、自分がどのように生まれたかを覚えており、33%の子どもは母親の胎内にいたときのことまで覚えていたのです。 これは「子宮内記憶」とも呼ばれています。

このことから、海馬が十分に発達していないという仮説は成り立ちません。では、その記憶は、いったいどのようなメカニズムで、どこへ行ってしまったのでしょうか?

2014年、カナダのトロント大学に在籍する神経科学者シーナ・ジョスリン氏とポール・W・フランクランド氏がラットを使った実験から、新しいことを学ぶ過程で、海馬に新しい神経細胞が生まれ、それらが加わって新しい神経回路が形成され、古い回路は変化したり失われたりし、その神経回路に付随する記憶もまた変化するという仮説を立てました。さらに、海馬の記憶の蓄積には飽和点があり、それを過ぎると掃除の時期が来ると推論しています。

しかし、これでは説明できないことがあるのです。それは、すでに多くの報告が存在する臨死体験です。「瀕死状態」では、多くの人が光を見たり、体から自分の魂が抜けでるのを見たり、自分のこれまでの生涯が次々と映し出されて、すべてが眼前に事細かに浮かんできたりするのです。 もし、幼少期の記憶が3、4歳ですべて削ぎ落とされるのであれば、人が人生の最後に見る記憶はどこから来るのでしょうか?
 

記憶を呼び覚ます方法

2018年、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進氏は、記憶する神経回路と、その後に記憶を呼び起こす神経回路が同じではないことを実験により発見しました。 つまり、「覚える」と「思い出す」は別のプロセスなのです。

これはマウスの脳の海馬の写真ですが、赤色は記憶が形成される部分、緑色は海馬の下部、想起を司る部分です。 緑色の部分の神経細胞をオフにしたところ、かつて特定のケージ(かご)に対して恐怖心を抱いたはずのマウスが、恐怖心を示さなくなりました。この実験は、私たちが「消えた」あるいは「忘れた」と思っている記憶が、実はずっと残っている可能性があることを証明しています。

2012年、利根川氏の研究チームは、エングラム細胞(記憶痕跡)と呼ばれる特定の記憶を保存できる細胞を特定しました。 このエングラム細胞の中には、記憶部の神経細胞が送る信号に反応しない「沈黙」の細胞も存在するといいます。 すなわち、表面上では、ある事柄については思い出せないことになります。

ところが、利根川進氏のチームは、記憶喪失のマウスに特殊なタンパク質を注入したところ、驚くほど記憶が回復したのです。利根川氏はこの研究がアルツハイマー病の人々を救えることを期待しています。

 

詳しくはEPOCH TVをご覧ください。
https://www.epochtimes.jp/2023/05/150722.html
 

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