湿気と暑さに負けない食養生
日本では5月を過ぎると梅雨に入り、蒸し暑くて雨の多い日が続きます。空気中の湿気が増えるこの時期は、体にも湿気がたまりやすくなり、食欲不振やお腹の張り、下痢、だるさや疲れを感じやすくなります。これは、消化機能が低下し、「気血(きけつ)」をうまく生み出せなくなることが原因です。
中医学では、こうした湿気の影響に対して「脾(ひ)を元気にして湿気を取り除く(健脾祛湿・けんぴきょしつ)」ことで、消化機能を整えると考えられています。脾と胃は陰陽の関係にあり、まるで夫婦のように連携して働いています。胃は体の「外」、脾は「内」を担当し、胃は気を下へ、脾は気を上へと運びます。しかし、湿気が脾の働きを妨げると、脾の気は上がらなくなり、それに連動して胃の気も下へ降りられなくなってしまいます。
そうなると、食べ物がうまく消化されず、胃の中に停滞して、胃もたれやお腹の張り、場合によっては吐き気につながることもあります。これでは食欲も湧かず、消化機能全体が弱ってしまいます。消化が滞ると気血も作られなくなり、結果として体がだるく、力が出なくなります。中医学では、脾と胃こそが広い意味での「消化器系」の中心だと考えられています。
つまり、胃腸を元気に保つためには、日々の食事で「脾を助けて湿気を取り除く」ことが大切なのです。湿気が取れれば、脾の気は軽やかに上昇し、胃の気も自然と下に流れて、消化機能が正常に働くようになります。さらに、胃の気がスムーズに流れれば胃の張りも解消され、肺の気も下がりやすくなり、大腸の働きも活性化して便秘の改善にもつながります。
中医学では「胃の調子が整っていないと安眠できない」とも言われます。
胃の気が逆流すれば、肺の気も上に滞り、心の熱(心火・しんか)も下がらず、頭や胸に熱がこもって落ち着かなくなります。その結果、寝つきが悪い、眠りが浅いといった状態になってしまうのです。
だからこそ、梅雨時期の食養生では「脾を助けて湿気を除き、熱を鎮めて潤いを補い、気血を養う」ことがとても大切なのです。
本日ご紹介する料理は、まさにそんな梅雨の時期にぴったりの一品です。
主菜:トマトとイカとそら豆の炒め物

材料と効能
・イカ:高たんぱく・低脂肪で消化にもやさしく、体を冷やしも温めもしない「平性」の食材です。気血を補い、体力や脳の働きをサポートします。気血が不足しがちで、体に湿気や熱がたまりやすいタイプの方に特におすすめです。
・トマト:体の熱を冷まし、心の火照りを鎮める働きがあります。甘酸っぱい味が脾と肝の両方に働きかけ、体にたまった余分な熱を取り除きつつ、乾いた体に潤いを与えてくれます。消化を助け、安眠にも効果が期待できます。
・そら豆:やや温性の食材で、脾胃の調子を整えます。利尿作用があり、お腹の張りを和らげる効果もあります。湿気対策にとても優れた食材です。
・生姜:冷えに弱い脾の働きを温め、消化を助けながら湿気を取り除きます。
・醤油・みりん・ごま油:香りづけ程度に使えば、体に余分な熱を与えず安心して使えます。
作り方
- イカは輪切りにして、さっと湯通ししておきます。そら豆は下ゆでして皮をむいておきます。
- トマトは大きめにカットし、生姜は千切りにします。
- フライパンに少量の油を熱し、生姜を炒めて香りを出します。
- トマトを加えて軽く炒め、水分を引き出します。
- そら豆とイカを加え、醤油とみりんで味を整えます。
- 最後にごま油をひと回しかけて香りをつけたら完成です。
効能まとめ
この料理は、気血を補いながら脾の働きを助け、湿気と暑さを和らげて食欲を促します。体がだるい、湿気がたまりやすい、口が渇く、イライラする、食欲がわかないといった方にぴったりの一品です。
副菜:ピーマンと煮干しのさっぱり和え

材料と効能
・ピーマン:体の熱を冷まし、湿気を取り除き、肝の働きを整えることで脾とのバランスを保ちます。気の巡りを良くして、すっきりとした体調をサポートします。
・煮干し:カルシウムを補い、腎の働きを助けながら脾を整え、気を補う働きがあります。体力の維持にも役立ちます。
・調味料:醤油・米酢・ごま油は風味づけ程度に使用することで、体に負担をかけずにおいしく仕上がります。
作り方
- ピーマンは細切りにして、さっと熱湯で湯通しし、アクを抜いてから水気をよく切ります。
- 煮干しはフライパンで軽く乾煎りし、香ばしさを引き出します。
- ボウルにピーマンと煮干しを入れ、醤油・米酢・ごま油で和えます。
- 冷蔵庫で10分ほど冷やすと、味がよりなじんで美味しくいただけます。
効能まとめ
この副菜は、脾の働きを整えて元気を補い、体にたまった余分な熱や湿気を取り除きます。食欲を促す効果もあるので、蒸し暑くて食欲が落ちやすい梅雨時期にぴったりの一品です。
まとめ
今回の主菜は、「脾(ひ)」の働きを元気にし、体にたまりがちな湿気を取り除きながら、気血を補って暑さをやわらげることを目的としています。
一方、副菜は「肝(かん)」と「脾」のバランスを整える役割を担っています。中医学では、肝は五行の「木」、脾は「土」に属しており、「木は土を制す」とされる関係にあります。そのため、ピーマンのように肝に働きかける食材を取り入れて、肝の気の巡りを良くしておくことが大切です。肝の気が過剰になると脾の働きを抑えてしまうことがあるため、それを防ぐことで脾がしっかりと働けるようになり、湿気の排出がスムーズになり、胃の気の流れも自然に整っていきます。
このように、主菜と副菜をバランスよく組み合わせることで、互いに効果を高め合い、より良い食養生につながります。分量や味つけは、人数や好みに応じて無理のない範囲で調整しながら、気軽に取り入れてみてください。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。