チベットの光 (61) 人か幽霊か

ミラレパの洞窟の中での修行も過ぎていった。このとき、彼の衣服はすでにボロボロになり、叔母が彼の地所を売りとばしてよこした毛皮も修繕不可能になったので、彼はこれらのボロをかき集めて円座を縫い合わせようかとも思った。しかし彼はこうも思った。「人の命は無常だ。自分だって今晩死んでしまうかもしれない。だったら、少しでも多く修められるよう、時間を浪費しないようにしよう」。彼は余った布きれをすべて集め、自分が身に着けている皮のボロを一緒に合わせて円座を作ると、その他の布きれで下半身を隠した。晩にもなると彼はそのボロを身に着けて修行に励んだ。

 こうして彼の堅い修行はさらに一年続き、彼の功はさらに伸びた。

 ある日、一群の人々がミラレパの修行する洞窟の所まで来て、中に入って一望した。すると、そこに骸骨のようなものが認められたので、彼らは驚いて叫んだ。「幽霊だ!幽霊がいるぞ!」彼らは口ぐちに叫びながら後ろを振り返ることもなく走り去った。

 「こんなに明るい真昼間に、なんで幽霊などいるものか」。後から続いた人が不信そうにそう言うと、中に入って辺りを見て、見ると怖くなって、後ずさりながら問うた。「あんたは一体何なのだ。幽霊なのか」

 「私は幽霊などではなく、この洞窟で修行する者です」。ミラレパは答え、これまでのいきさつを話した。

 彼らはかぶりを振って言った。「われわれには到底そんなことは信じられない」、彼らが改めて洞内を仔細に観察してみたものの、イラクサ以外は何も見つからなかった。彼らはミラレパにツァンバと肉を与えて言った。

 「あなたのような修行者には、実に敬服させられるよ。それで、どうかわれわれが殺した動物たちの魂を済度してくれ。そしてわれわれの罪業も清めてほしい」。そう言い終えると、ミラレパを礼拝して離れていった。

 ミラレパはこの三、四年、イラクサ以外は何も人間の食物を食べていなかったので嬉しくなり、さっそく肉を煮込んで食べた。食べるとすぐに身体はしゃっきりとして、健康になり、智慧も増した。修行においては、彼はかなり深い法理を悟っており、智慧の増大とともに功力も大きくなって、嘆きを禁じ得なかった。

 「世間の人は、煌びやかな法衣に包まれた法師に大量の財物を供養することは知っているが、本当の修行者には一椀の飯さえ供養することを知らない。綿の上に花を添えることばかり知っていて、雪中に炭を送る貴さを知らないのだ」

 それからまた一年が過ぎ、ミラレパの郷里の人たちが猟に出た。しかし終日たっても、何も獲物がなく、彼らは都合よくミラレパの洞窟のところまでやって来た。彼らが中を見回すと、何やら緑色の骸骨のようなものが座っている。彼らは戦々恐々として、弓を引くとミラレパに照準して問うた。「あんたは人か、はたまた幽霊か。あるいは獣か、ただの幻影か。いったいなんなのだ。どうしてそのように幽霊のような風貌をしているのだ」

 (続く)
 

(翻訳編集・武蔵)