コロナワクチンと血管炎の関連性を示唆する複数の症例報告

コロナワクチンが血管炎を誘発 多臓器損傷につながるおそれ

新型コロナワクチンに関連したさまざまな疾患が報告されている。昨年発表されたある症例研究では、コロナワクチン接種が抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の発症を誘発し、多臓器損傷を引き起こす可能性があることが示された。また、一昨年に発表されたある症例ベースのレビューでは、ワクチン接種後にANCA関連血管炎にかかった患者29人のうち、5人はプラズマフェレシス治療(血液から血漿成分を分離して置換する治療)を受け、5人が透析療法に頼っていたことが報告された。

ANCA関連血管炎は細い血管に障害を起こす。これらの血管は全身に分布しているため、体のどの部位でも侵される可能性があり、最も影響を受けやすいのは肺、腎臓、関節、耳、鼻、神経だ。

好中球は白血球の一種で、感染との戦いや傷の治癒を助ける。ANCAは有害な自己抗体であり、血液中の好中球に結合して毒性物質を放出し、細い血管の壁を損傷する。その結果、好中球が血管壁を通って移動し、周辺組織に炎症を誘発することもある。さらに、好中球をさらに引き寄せるシグナル伝達因子を放出し、炎症を持続させ、細い血管をさらに損傷する。

ANCA関連血管炎の症例報告

2023年4月にCase Reports in Nephrologyに掲載された症例報告では、高血圧を患っている82歳の女性が、3回目のコロナワクチンブースター接種後に、抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)関連血管炎を発症したことが報告されている。MPO-ANCAはANCA関連血管炎の一次自己抗体の一つだ。

患者は2021年5月と6月にファイザー社のワクチンを2回接種し、その後2022年2月初旬にモデルナ社のワクチンを接種した。ブースター接種の翌日から頭痛が起こり、3日後にはおさまった。しかし、3月初旬から体温が上昇し、全身に倦怠感が出てきた。

診察の結果、明らかな細菌感染は認められなかったが、血液検査で炎症反応が認められた。C反応性蛋白値が15mg/dLと高く、白血球数が13000/μL(正常値は4000〜10000/μL)だったことから、細菌感染が疑われた。医師は抗生物質を7日間連続で処方したが、改善はみられなかった。

患者はその後入院した。身体検査と画像診断では発熱は見られず、腎臓の大きさも構造も正常だった。しかし、顕微鏡検査で血尿と尿蛋白が検出された。さらに、MPO-ANCA値が296 IU/mLと高かった。腎生検(腎臓の組織の一部を採取して、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる検査)の結果、6つの糸球体(腎臓の中にある小さなフィルター)に細胞性半月体が観察され、軽度の炎症が認められた。

さらに、免疫蛍光検査で急速進行性糸球体腎炎が確認された。これは急速に進行する糸球体の炎症を伴うまれな小血管炎だ。臨床的には、尿異常(血尿、蛋白尿)、高血圧などの腎障害を特徴とし、数日から数週間で腎不全に至る。病理所見から、患者は腎限局性MPO-ANCA関連血管炎と診断された。

ステロイド薬のプレドニゾロンを1日40mg投与したところ、発熱、倦怠感、炎症反応などの症状が改善し、血尿も尿蛋白も消失した。医師はステロイドの投与量を徐々に減らしていき、1日20mgに減らしたところ、患者の状態は安定した。

研究者らは、3回目のワクチン接種前に患者に実施された血液検査と尿検査では腎臓の損傷や異常は明らかにならなかったと述べ、新型コロナワクチンとMPO-ANCA関連血管炎の発症との関連性を示唆している。

研究者らは、この患者のように、コロナ mRNAワクチン、特にモデルナ製ワクチンの接種後に発熱、長引く全身倦怠感、血尿、腎障害を経験した患者については、MPO-ANCA関連血管炎の可能性を考慮すべきであると述べた。

ANCA関連血管炎に関連する5種類のコロナワクチン

広範なワクチン接種が、一部の人々に血管炎を発症させ、複数の臓器に障害をもたらしていることを示す報告が増えている。

2022年2月に発表された症例ベースのレビューでは、ANCA関連血管炎に関連した5種類のコロナワクチンが報告されている。

この研究には29人の患者の症例が含まれ、22人がmRNAワクチン(モデルナ製とファイザー製)を、4人がアストラゼネカ製ワクチンを、2人がコバクシンを、1人がJ&J製ワクチンを接種した。29人全員が、いずれかのコロナワクチンの接種後にANCA関連血管炎の症状を示した。

具体的には、22人の患者が腎障害を示し、症状は新規発症または再発性の糸球体腎炎として現れた。少なくとも24人が血尿を呈した。10人に肺障害がみられ、5人に肺胞出血がみられた。視神経炎を発症した者が1人、耳介軟骨炎を発症した者が1人いた。これらはワクチン投与後に生じた臓器障害の兆候だ。

ほとんどの患者はステロイド薬を含む免疫抑制療法を受けた。さらに、5人が血漿交換療法を受け、少なくとも5人の患者は最終追跡調査時点でも透析に頼っていた。

この研究は、程度の差こそあれ、mRNAワクチンには骨髄細胞や樹状細胞を刺激し、下流の経路を活性化して、自己免疫炎症を引き起こす可能性があることを指摘した。

さらに、mRNAワクチンは抗ウイルスの中和抗体を産生し、CD8+およびCD4+ T細胞を活性化し、強力な免疫応答を引き起こす。自然感染と比較して、mRNAワクチンは自然免疫や獲得免疫への刺激を増強する可能性がある。免疫系が低下している人によっては、核酸を除去する能力が低下し、好中球に影響を与える可能性がある。

血管炎が多臓器障害を引き起こす可能性

ANCA関連血管炎にはさまざまなタイプがあり、顕微鏡的多発血管炎もそのひとつだ。顕微鏡的多発血管炎患者のなかで、MPO-ANCAの陽性確率の高さは顕著だ。

日本難病情報センターのデータによると、顕微鏡的多発血管炎患者の約70%が発熱、体重減少、倦怠感などの全身症状を経験している。さらに、体組織の出血、虚血、梗塞などの症状が現れることもある。

最も一般的な症状は壊死性糸球体腎炎で、血尿、尿蛋白、血清クレアチニン上昇などの症状を呈する。この疾患は数週間から数か月以内に腎不全へと急速に進行することが多いため、早期診断が極めて重要だ。その他、壊死性糸球体腎炎患者の約60%に網状皮斑、紫斑、皮膚潰瘍、皮下結節などの発疹がみられる。多発性神経炎は約60%、関節痛は約50%、筋痛は約50%の患者に観察される。

さらに、間質性肺炎が約25%、肺胞出血が約10%の患者にみられる。どちらの病態も肺毛細血管に影響を及ぼす血管炎に起因し、咳、息切れ、呼吸の速さ、吐血、血痰、血中酸素濃度の著しい低下などを引き起こす。消化管病変は約20%の症例にみられ、心筋病変による心不全は約18%。

ANCA関連血管炎は、速やかに治療しなければ生命を脅かす可能性がある。早期診断と適切な治療により、大半の症例で改善がみられる。

しかし、治療が遅れたり、初期治療に対する反応が悪かったりすると、不可逆的な臓器機能障害を引き起こす可能性があり、腎不全の患者には血液透析などの処置が必要になる。また、症状が再発する可能性もあるため、専門医による定期的な検査を受ける必要がある。

Ellen Wan
2007年から大紀元日本版に勤務しており、時事から健康分野まで幅広く携わっている。現在、記者として、新型コロナウイルスやコロナワクチン、コロナ後遺症、栄養学、慢性疾患、生活習慣病などを執筆。