【ショートストーリー】365分の1の奇跡 ~Merry Christmas !~

【大紀元日本12月24日】「あー最悪だ! 年末だというのに、経済はリセッションでお客さんの懐は寂しい・・今日も乗ってくれないし・・」 日の元タクシーの運転手・健二(36)は、クリスマス・シーズンでイルミネーションが目にも鮮やかな東京・新宿の町並みを流していた。

「だけどいいや・・微々たる額だけど、ボーナスも出た。3万6,600円か・・証券マンの頃と比べると、泣きたいぐらいの額だが、これで息子の正一に何か買って帰ろう。今日はクリスマスだし・・」

健二は、米国の大学に留学して経済を修め、帰国してからは国内の証券会社に就職して、若くして支店長にまで登りつめたものの、古株の顧客からインサイダー取引を持ちかけられ、一攫千金の夢に破れて経済犯として転落。留学中に知り合った米国人妻のメアリーとは別れ、間にできた一粒種の正一を育てるシングルファーザーになっていた。

健二は、新宿3丁目界隈の駐車場に車を留めると、なけなしの金を持って、もうとっぷりと日の暮れた師走の街に出た。

少し歩いた頃だろうか・・歌舞伎町界隈に入った頃に、デパートの入り口で「ボージョレー・ヌーボー・赤ワイン・フェア」なる看板が目に付いた。「赤ワインか、しばらくそんなもの飲んでないなぁ・・」

デパートの地下街は、すっかりクリスマス一色になっており、健二が徐にワイン・フェアのコーナーに近付くと、「コングラチュレーション!・・あなたは365人目の訪問者です。どうぞ南仏のパンとワインを存分にお楽しみ下さい!」と言われ、ワイングラスに赤ワインをナミナミと注がれ勧められた。

「いや・・あのぅ・・嬉しいのは山々なんですが、持ち帰りじゃ駄目なんでしょうか?」しかし、トナカイに扮した若い女の子は屈託のない笑顔を崩さない。「ええい! もう、据え膳食わぬは男の恥・・飲んだら乗るな、乗るなら飲むな!・・もうどっちでもいいや!」と、健二は気合とともにグイと一息で飲んだ。「うん?・・なんだ、この肉親から輸血されたような感覚は?・・」。

健二は、デパ地下をでると、ホロヨイ気分で新宿の繁華街を流して歩き始めた。すると、路端で小さな机を出している変なガイジンを見つけた。例によって、サンタクロースに扮した青い目の恰幅のいい白人男性だ。傍らに巨大なズダ袋、机の上には、小さなルーレットが置いてあり、「一回、千円・・」とある。

「は、は~ん。クリスマス版の福袋みたいなもんだな。正一が喜ぶかもしれない・・変なガイジンのオジさん、一回頼むね」。健二が、よく見ると、そのルーレットは、出目が1から365まであり、最後に「X」が刻まれている。

健二は、見たこともない出目で、不審に思ったが「エイ!」とばかりにルーレットを回した。果たして、銀の玉は転がり終えるとヨロヨロと「X」で止まった。「オー・・、アナタハ、タイヘンニコウウンナオトコデース!」と絶叫するなり、そのサンタは脇目も振らずにハンドベルをケタタマシク鳴らした。

健二は、周囲に少し恥しく、ベルの音が耳障りでもあったのだが、とにかく大当たりということで気分よく賞品を待った。しかし、果たしてサンタが目の前に出したものは募金箱であった。「セカイノメグマレナイコドモタチニ・・アイノテヲクダサイ・・」

健二は途端に守りに入った。「わかった・・アンタ、サンタの格好をしているが、宗教団体のものだな、今はやりのモノマネの塔じゃないのか?」 するとそのサンタは慌てて手をふり、「チガイマース!ワタシ・・ホンモノノサンタクロースデス・・テンゴクカラキマシタデース・・」

健二は説明を聞いているうちに、ワインの勢いも手伝って、半ばヤケクソになってきた。「ええいくそ!・・旅は道連れ、世は情け・・」と、懐から虎の子の1万円を募金箱に捩じ込んだ。

するとサンタは平然と、「モットイレテクダサーイ!・・アナタ、カツテミエナイトコロデ、オカネデツミビトニナリマシタ・・モットイレテクダサーイ!・・」

健二は一瞬ぎくりとした。「この外人、なんでおれの過去まで知っているんだ?・・ええい!もうどうでもいい、江戸っ子は宵越しの金は持たねえ!」とナケナシノ全額を募金箱に突っ込んで、「この幸運が、世界の子供たちに巡り巡って、息子の正一まで回りますように!! 」師走の夜空に絶叫した。

ふと気が付くと、目の前のサンタはいない。しかし懐を弄ると、虎の子のボーナスは雲散霧消していた。「はて・・、赤ワインの飲みすぎで白昼夢でも見て、なくしてしまったのか・・どこかに落としたのか・・???」

健二が自宅の部屋に戻ると、真っ暗な部屋の中で、暖房も付けずに息子の正一(9)が、すやすやと寝ていた。健二は、蒲団から出ていたその手を取ると暗がりでつぶやいた。

「すまないなぁ・・正一・・混血児として生まれてきただけでも、すごいハンディなのに・・学校でもいじめられているんだろうな・・おまけに親父が経済犯で・・おふくろもいないんじゃ・・絵に画いたような不幸な家庭だよな・・」

健二はふと気が付くと、自らの涙で正一の布団を濡らしているに気がついた。「あのとき、俺が汚い取引に手を染めさえしなかったら・・一家揃ってクリスマスが迎えられたのになぁ・・お父さんは心から反省しているよ・・おまえの魂も、おれの息子として生まれてこなければ、こんなにも悩んだり苦しんだりしなくても済んだろうになあ・・もし、この世にまだ神様がいるのなら、私たち一家にもう一度だけチャンスを与えてほしい。一家が一緒であった頃にもう一度時間を戻してくれたら!・・」「吹くほどに・・口元寂し・・年の暮れ・・かな・・」

すると、夜中の午前1時も回った頃だろうか、ピンポーンと呼び鈴の音がする。「誰だ?こんな夜更けに・・証券マン時代の奴らは、皆愛想を尽かして付き合いはもうないはずだが・・」

ドアを開けると、そこに立っていたのは、身覚えある、健二と正一にとって懐かしい、伏し目がちなガイジン女性であった。

“Did you call me ? Shall I come back ?…..”

“…..of course, why not ? …..here’s a miracle, …..unbelievable !…..here’s certainly a Santa’s luck !”