【ショートストーリー】平凡な石

【大紀元日本3月15日】昔々、日本のある所で地表が爆発してマグマが噴出し、それが冷えて長い間に小さな山「御蔭山」となった。すると山頂近くに、さまざまな鉱物を含んだ石やら人の役に立つ用途の石やらが山積するようになり、石どうしでコミュニティー社会を形成するに至っていた。

平凡な石「どうして、私はこう平凡で特徴がないのだろうか…黒岩さんのように大きくもないし、はたまたヒスイさんのように奇麗でもないし、きわめて特徴がないなぁ」。

黄金の鉱石「はははは!平凡君、余の体を見たまえ!体中に黄金が散りばめられているだろう。これ以上華麗な石は、余を置いて他にあるまいて。私がこの山で一番だな!」黄金鉱石は威張り散らした。

ヒスイの原石「待って。私の体を見てちょうだい。体中にヒスイのグリーンの原石が散りばめられていて眩いほどよ。黄金さんにもひけをとらないわ。」そういって黄金鉱石を美で挑発した。

すると暫くして、貴金属業者のデベロッパーが山に分け入って来た。「これは、素晴らしい価値のある鉱石だ。指輪やネックレスの原料にしよう…」と呟くなり、これらの貴重な鉱石を洗いざらい持って行ってしまった。

平凡な石「…あれ、黄金さんとヒスイさんがいない。どこに行ったのかなぁ?美男不運、美人薄命というけど…そういうことなのかなぁ、もう平凡だと批判されることもなくなったけど…」すると、またどこからともなく「平凡」を批判する声が聴こえてきた。

大理石「おい平凡君!僕の体を見てくれないか。真っ白で汚れがない。それに君よりも遙かに大きく堂々としている。最早、黄金さんとヒスイさんがいなくなった今、僕がこの山で一番だな!まったく君には特徴がないよ」。

するとまた暫くして、今度は建築業者が山に入ってきた。「この大理石は素晴らしい!玄関は勿論、浴室やトイレにも使える。さっそく都会派セレブの高級住宅に建築資材として使おうか…」というなり、この業者は大理石全部をごっそりと街に持って行ってしまった。

平凡な石「あれぇ、大理石さんもいなくなった…世の中、純白なだけじゃ駄目だってことなのかなぁ?清濁併せ呑む器量が必要だってことなのかなぁ?わからないなぁ」。するとまたどこからともなく今度は地表から響くような声が聴こえてきた。

御影石「平凡くーん!見てくれよ、この黒光りする逞しい体を!何年風雪に遭っても、へこたれたり、崩れたりしないぜ!丈夫さや力強さから言ったら、もう私が一番だな!君は全く弱々しく見えるよ!」。こう言って、御影石は自分の力強さを自慢した。

すると今度はメモリアル業者が山に分け入ってきた。「最近は、核家族の時代でねぇ…一家庭に一基の墓だなんて、墓石を見つけるのも大変だよ…おぅ!これはいい御影石だ。頂いて都会で霊園開発に役立てよう…」というなり、黒光りする御影石を持って行ってしまった。

平凡な石「…あれぇ、いつの間にか御影石さんもいなくなってしまったぞ…強さを威張るのは駄目だってことなのかなぁ、適当に負けている僕の方が、長生きできるということなのかなぁ?わからないなぁ」。すると、またどこからともなく声が聴こえてきた。 

化石「おーい!平凡君、僕の体を見てくれよ。昔々の生き物の印が克明に記されているぞ。まさに歴史の生き証人のようなものだな。こんなに貴重な石は僕の他にないな。今度は間違いなく僕の天下だな!」

すると、今度は大学の考古学調査員が山に分け入ってきた。「うん!?なんだこの化石は。古代の爬虫類の骨格に違いない!これは学術的にも画期的な発見だ。さっそく大学の研究室に持って帰り、貴重な標本としよう!」こう言うなり化石をすべて持って行ってしまった。

平凡な石「…あれぇ?黄金さんやヒスイさんのような美しい石や、大理石さんや御影石さんのような役に立つ石、化石さんのような歴史の生き証人などなど、特徴のある石は全部いなくなってしまった…どういうことなのかなぁ?周りは全部もう僕のように特徴のない平凡な石ばかりだぞ…」。

すると今度は環境省の役人が山に分け入ってきた。「…ここの山岳麓に生息する生物は、植物も含めて極めて貴重な品種ばかりだ。いっそ、ここいら一帯を国定公園と定めて生物の種を保護しよう…それには、自然環境をも含めて採集禁止、石なども採ってはいけないこととしよう」。

しばらくして、この山も国定公園の一部となり、平凡な石たちは一生を安泰に暮らした。