【ショートストーリー】現実

【大紀元日本10月9日】真知子は、勤めを終えるといつものように六本木のアマンドでブラックコーヒーを口にして溜め息をつく。

「いつ頃から…これが習慣になってしまったのだろう?」 もう三十路もとうに過ぎたというのに人生の伴侶が決まらない。

10月の東京は、雨が多く道行く人の足取りは何かよそよそしく気忙しい。雨水に照り返す高級車のヘッドライトが憂愁の念を誘う。

少し恥じらい気味に修飾された携帯を開くと、待ち受け画面には「意中の情人」が笑っている。「想う人には…想われず…かぁ」 平安時代のような恋愛に自虐的な笑いがこみ上げる。

着信履歴を開く。朝から、いつものように「想われ人」の誠から、ほぼ定刻通りに入っているのを見て、また溜息をつく。「キープって…人間的には背信なのかしら?」 もうあまり罪悪感も麻酔をかけられたように麻痺して、「運命」だとも思えて来る。

「いやぁ、待った?」 誠がいつものように屈託のない笑顔で話し掛けてくる。人間的には、申し分がない。しかし、魂が喜んでいない自分が確実にここにいる。

「ううん、全然!」 精一杯の笑顔を取り繕って、嬉しそうに誠の手をとって店を出る自分がいる。それが、偽りの演技である見栄だと知っているのに…

六本木の10月は雨が多い。道行く人の足取りは何か寂しげで気忙しい。雨水に照り返す高級車のヘッドライトが人を寄せ付けず受け入れない。