【本との話】探偵作家をKOした「難問集」

【大紀元日本8月9日】雨上がり夕涼み木陰ロッキングチェアー・・・にゆすられて、鮎川哲也の『ヴィーナスの心臓』を一気呵成に読み切りました。ある年の日本探偵作家クラブの例会の余興で朗読された犯人当てテキスト7作品が問題編としてあり、その解答編が巻末に付されています。

例会に出席した日本の第一線推理作家が悪戦苦闘した問題集を、素人推理家である読者がどこまで挑戦できるかがこの本のミソです。果たしてあなたは「難問」の幾つに解答推理を与えることができるでしょうか? 犯人当てに行き着いた推理の正しさが、鮎川哲也さんの仕掛けたトリックに試されることになるのです。

もし探偵小説が中国で発達していたなら、中国で偽装される難事件のトリックを見破る推理眼が少しは育っていたことでしょう。一人のシャーロックホームズ、名探偵・コナンを夏のミステリーに甦らせてみましょう。

ミステリーを読み解けないもどかしさの醍醐味は、謎を解けない私こそが裸の王様であると知ることなのです。自分の中に犯人を探し当てる意想外の視点に気づけば、推理作家が偽装したトリックを少しは楽しく透視することができるでしょう。

問題編に入る前に鮎川さんは「私の作になる本編の場合ですが、まことに不思議なことに、人一倍推理力がすぐれていなくてはならぬ会員でありながら、本当の意味での正解者はただの一人もありませんでした。・・・・では、読者のあなたは果たして如何でしょうか。作者のワナにひっかからぬよう、眉に唾してお読みをねがいます」と親切な警告を発してくれています。

私はといえばこれみよがしに油断させて煙に巻くように間違った犯人像へと誘い込み、まことしやかな罠が入念に仕掛けられたトリックに、推理頭を刺激されて心行くまで楽しむことができました。

第1テキスト「達也が嗤(わら)う」から第7「悪魔はここに」の締めくくりまで、円環する字謎(アナグラム)による犯人当ての趣向は、まあるいベレー帽をこよなく愛した鮎川さんの悪戯気(いたずらけ)たっぷりなミステリーの隠し味になっています。推理作家は押しなべて、どんでん返しする世界を楽しむ技量に長けた人たちであるようです。

中国をどんでん返しする探偵作家が、綺羅星のごとく生まれいずる21世紀のミステリーを、いつか皆様とご一緒して楽しみたいものです。

                                  

(そら)