韓国の芸能人、なぜ自殺が多いのか?

パク・ヨンハ(冬のソナタ)、イ・ウンジュ(火の鳥)、ユニ(UNEE)、チョン・ダビン、安在煥、チェ・ジンシル…夜空の流星のように、一瞬のきらめきを残してこの世を去った韓流スターたち。ここ数年間における韓国芸能人自殺率の高さは目を見張るものがある。

 延世大学行政学院の大学院に在席する韓国女優・朴辰姫さんが、韓国の芸能人の自殺問題に関する論文を発表した。論文では、260名の韓国の芸能人のうち、40% が軽度あるいは深刻なうつ病を患い、40% 以上が、自殺する傾向にあったことを指摘している。

 芸能界に詳しい専門家は、韓国の芸能人たちは経済的なプレッシャーや世論の圧力に耐えなければならず、自殺を誘発しているという見解を示している。極めてハードなスケジュールに加え、プライベートも保護されず、誹謗中傷の書き込みが随時ネットに広がる。また、メンツを命よりも大切とする韓国人特有の国民性も、自殺の起因だ。

韓国芸能界の「厳しい生存競争」

韓国国税庁が発表した最新の統計データによると、韓国の役者、歌手、モデルなど芸能人の平均年収は2850万ウォン(約201万3千円)で、韓国人サラリーマンの平均年収の2580万ウォン(約182万3千円)より少し高い程度だという。

 韓国の芸能界では、事務所とタレントの給与分配は一般に7:3、あるいは8:2の割合。公演の経費も、芸能人が自腹を切る場合がある。多くの小規模の芸能人事務所は、経営状況が良くないという理由で、タレントの給料を搾取している。1割の報酬さえ得られない悲惨な境遇に置かれている芸能人の数は、少なくない。韓国の芸能界は、「タレントは多いが、仕事の数は限られている」という状況。過度な競合環境で、芸能人は所属事務所にコントロールされ、もはや金儲けという歯車の一部になってしまっている。タレントは恋愛や髪形、些細な私生活まで、すべて事務所に管理される。事務所から「性的な接待」を強要されるケースもあるという。

 多くの芸能人は人気が出ると、事務所から独立することを望む。しかし、経験が浅いために失敗し、さらに大きな経済的損失に見舞われてしまう。役者の安在煥さんは、巨額の債務を背負って自殺に追い込まれた。

 韓国と比べて日本の芸能事務所では、人情味のある「月給+広告などの収入の歩合制」がタレントに支払われる。タレントたちは比較的安定した収入を得られる一方、事務所からの私生活への干渉も、韓国スターに比べて低い。

発散しにくい世論からのプレッシャー

経済的なプレッシャーのほか、世論からの批判も彼らを苦境に追い込んでいる。ごく小さな誤りを犯しても、それはすぐにメディアに大げさに報道されてしまう。

 江北サムスン病院精神科医の申英澈(シン・ヨンチョル)教授は大紀元の電話取材に応じ、芸能人の自殺について次にように語った。「韓国のタレントたちは、ストレスを発散する空間がありません。特に、今ではインターネットが発達し、至る所で監視されやすくなっています。ネット上で広がるデマも、タレントに大きな精神的ストレスを与えています。このような社会で、タレントたちの自由な空間は非常に狭くなっています」。

 2007年2月、「隣の女の子」といった親しみやすいイメージで広く愛されていた女優のチョン・ダビンさんが自殺した。聞くところによると、チョン・ダビンさんはネットに書き込まれた悪意ある誹謗中傷のコメントに苦しんでいたという。2008年10月2日、国民的スターだったチェ・ジンシルさんもネット上のデマに勝てず、チョン・ダビンさんの後を追った。

 西洋社会では、芸能人のプライベートや過ちなどを、割と寛容な心で受け止める。日本でもタレントに対する誹謗中傷はあるが、韓国の比ではない。極端なケースの場合は、所属事務所が解決してくれる。

 一方、韓国では、あらゆる苦痛と精神的な圧力は全てタレント一人で抱えなければならない。

光の中にいる有名人 「メンツは命より大切」

米国や日本の大手タレント所属事務所は、専門的な心理カウンセラーを雇い、定期的にタレントたちの心理状態をチェックしている。しかし、韓国では心理カウンセリングを受けることはメンツを潰すこと、つまり尊厳を失うことだと捉えられており、特に有名人にはその心理が強く作用する。

 ある専門家は、「多くの韓国人は他人から肯定されることを求めています。もし自分がよくないと指摘されたら、自暴自棄になり、極端な道を選びやすくなります。人気度に依存する芸能人には、このような傾向がさらに強いのです」と指摘する。

韓国人特有の「恨(ハン)の哲学」

韓国人の伝統的な価値観の影響も、見落とせないだろう。韓国は資源の乏しい小国で、歴史的には列強から数百回におよぶ侵略を経験してきた。20世紀には屈辱的な侵略があり、分割されたことで拭い去ることのできない記憶となった。多難な歴史と特殊な地理環境が、近代韓国人の強い独立意識と民族のプライドを奮い立たせたのかもしれない。長い時を経て、「恨み」の感情が民族の中に埋め込まれている。

 従って、韓国人は厄介なことに見舞われても公にせず、内密に解決することが美徳だと信じている。時には自己を犠牲にして他人の同情を求めることもある。「花より男子」に出演した女優のチャン・ジャヨンさんは自殺の方法で芸能界の暗黙のルールを暴露し、チェ・ジンシルさんも自分の死を通して社会への恨みを表した。

有名人の自殺がもたらした「ウェルテル効果」

異なる文化により、自殺への考え方も違う。西洋人は自殺を一種の罪悪と見なしているが、韓国では、「自殺者は大きな苦痛を嘗めたために、自殺の道を選んだのだ」と感じ、同情する。それも韓国の自殺率が高まりつつある要因の一つと考えられる。 

 実際、韓国芸能人の自殺が引き起こした「ウェルテル効果(※)」は、確かに心理状態の不安定な一般の人々に大きな影響を与えている。例えば、女優のイ・ウンジュさんが自殺した後、ソウル市での一日あたりの自殺者の数は激増した。

 韓国の芸能界、一般の人々、価値観…タレントの自殺には、いろいろな問題が絡み合う。根本的な原因は人間の道徳の滑落ではないだろうか。人間の道徳心を向上させ、互いへの思いやりを前面に出し、人々が孤独感から解き放たれることが、これ以上犠牲者を出さないための道ではないだろうか。

 ※ウェルテル効果―1774年、ドイツの大文豪ゲーテ氏の小説《若きウェルテルの悩み》に由来する。この小説の影響で、当時のヨーロッパで主人公のウェルテルをまねて自殺する連鎖事件を誘発した。
 

(記者・南昌煕/趙潤徳、翻訳編集・李頁)