復旦大学の学生、有毒食品「ウィキペディア」を作成=中国

【大紀元日本7月12日】発がん性物質に汚染された牛肉が製造された事件、「牛肉膏の偽牛肉」問題をニュースで知った呉恒さん(25)は、自分たちも毒入り食品の被害者であることを強く意識し、「中国食品安全状況調査」を纏めたインターネット百科事典を公開し始めた。呉さんのこの調査報告サイトは今、有名なインターネット百科事典「ウィキペディア」を引用して、「有毒食品ウィキペディア」と称され、ネット上で大きな反響を呼んでいる。

北京紙・新京報によると、呉恒さんは現在、復旦大学歴史地理研究センターの修士生で、6月17日、志願者グループと共に「擲出窓外」というサイトを立ち上げると同時に『中国食品安全問題ニュース・データベース』、『※易糞相食:中国食品安全状況調査(2004-2011)』と『擲出窓外―食の安全の危機に直面して、あなたがとるべき行動』などの食に関する報告書を発表した。これらは発表後、ネット上において広い範囲からの注目を集めた。サイト立ち上げ初日でアクセス数は1万に達していたという。

 「鉄板牛肉丼」がきっかけ

呉さんの食に対する意識に変化をもたらしたのは、身近な出来事だった。毎日、夕飯は出前をとっていた呉さんは、大学裏門にあるレストランの鉄板牛肉丼が大好物だった。一杯たった10元(約120円)、大きな牛肉が乗っていて、経済的でお得だと思っていた。呉さんのルームメイトは、こんなに安い牛肉は偽物に違いないと言って度々注意していたが、呉さんは、食感も味も変わらないと助言を聞き入れなかった。

しかし今年4月、ネットに流れたニュースで、中国各地で豚肉を牛肉の味にする違法添加物「牛肉膏」には発がん性物質が含まれており、食べ過ぎるとガンになるということを呉さんは知った。この時、自分も無意識のうちに毒入り食品の被害者になっていたということに気付き、非常に驚いたという。

「私は大学生で、校内にさえいれば飲食上の問題はなく、屋台の食べ物は食べないので、どれほどたくさんの有毒食品が存在しようとも私には関係ないと思っていましたが、その時、この無邪気な考えはあっという間に覆されました」と、認識の変化について述べた。そして、「私たちが毒入りの食品を口にしてダメージを受ける機会は、実は想像するよりもはるかに多いのです」と警鐘を鳴らす。

呉さんはこの出来事以降、ここ10年の中国の食品安全に関する調査を独自に行った。さらに、より多くの人に、食の安全の危機的実態がすでに目の前に迫っていることを意識してもらえるよう、この活動をより活発なものにするため、志を同じくする協力者を広くネット上で募った。

報告書の編纂記録をつづったブログには、英国エリザベス朝の形而上派詩人ジョン・ダンの短詩、『誰がために鐘は鳴る』が引用されている。

誰も孤島ではなく 誰もそれ自身だけではなく 人は皆、大陸の一部

(中略)

誰かが死ぬのもこれに似て 我が身を削られるのも同じ なぜなら自らも人類の一部

ゆえに問う無かれ 誰がために弔いの鐘は鳴るのかと

それが鳴るのはあなたのため

呉さんは、この詩が今の中国国内の食品安全問題の深刻な情勢を表すのに非常に適していると思い、使用した。「他人の苦しみに対し、全く無関心でいてはならない。なぜなら、次に苦しむのがあなたではないと誰も保証できないのだから」

しかし、「深刻な情勢」であるにもかかわらず、周囲の反応が思いのほか薄いことに、呉さんは悩んでいる。

食の安全に関する中国の危機意識の低さについて、『温水煮青蛙(茹でガエル)』と呉さんは指摘する。食品問題についての報道は多すぎて、この問題に対し、皆が「もうどうでもよい」という諦めを抱き始めているが、呉さんは、以前起きた全てのニュースを集めればこの「水温」を高くすることが出来ると話し、この温度に驚く青蛙を、少しでも増やしたいと述べた。

 「易糞相食」と「擲出窓外」

ニュース・データベースの完成後、呉さんは更に『易糞相食:中国食品安全状況調査(2004-2011)』と『擲出窓外 ― 食品安全の危機に直面して、あなたがとるべき行動』の2編の報告書を発表した。

報告書作成時、「もう少しで拒食症になるところだった」と呉さんは笑う。資料を集めている時、東莞と重慶2か所の浄化槽の水で、「地溝油(工場等の排水溝や下水溝に溜まったクリーム状の油をろ過し、精製した再生食用油)」を作っているというニュースを読んで、その日は昼食を口に出来なかったそうだ。

今年4月、上海の食品業者が隠ぺいした「染色饅頭事件」では、問題の饅頭製造者が「腹が減って死んだって(この饅頭は)食べない」と取材記者に対し答えたという。この記事に呉さんは怒りを感じる一方、違和感を覚えたという。「全ての有毒食品製造者がこの考え方を選ぶとする。自分の製造したものを食べなければ安全だと思っているのなら、このゲームには勝者がいない。なぜなら皆が『易糞相食』だからだ」と言い放った。

※易糞相食:「糞を易えて相して食う」。中国で飢饉の厳しい時代、親同士が赤ん坊を取り替えて他人の赤ん坊を食す、という意味の熟語「易子而食」を言い換えて作成された、呉さんの造語。ここでは、有害食品製造者らが自ら作った有毒食品を食べられないので他の業者の作ったもの(これも有毒食品)を食べることを意味している。

(翻訳編集・坂本)