【紀元曙光】2020年1月16日

1月11日に行われた台湾総統選挙。中国語でいう「総統」はプレジデントの訳である大統領に相当するもので、ヒトラーなど全体主義国家のそれを想起する必要はない。
▼つまり蔡英文さんは、正常な民主選挙で選ばれた国家元首である。日本をはじめ各国から祝意が寄せられて当然であるが、そのことに北京は不機嫌で、中国外務省は「強い不満と断固とした反対を表明する」と述べた。
▼一つの中国の原則に反している、というのが化石化した原則論に固執する彼らの言い分であろう。しかし、歴史的に見て、これほど滑稽な図式はない。彼らの言う「中国の一部」のほうが、はるかに成熟した国家を形成し、民主的な普通選挙を実施しているのだ。
▼北京の圧力に屈しない香港の若者の姿が、今回の台湾の民意に与えた影響は大きいだろう。それを受けて台湾が示した明確な結果は、多くの香港市民の心に連帯するものだ。
▼その一方で、大いに気になることがある。各報道は総統選の結果について、「蔡英文817万票、韓国瑜552万票、蔡氏の圧勝」と伝えた。確かに300万票近い差ではあるし、選挙の結果は当落いずれかであるから、蔡氏の勝利に違いないが、「圧勝」とまで言えるかどうか。
▼驚いたのは、韓氏に552万票も入ったということだ。それほど多くの人が中国融和の立場をとる候補者に投票したのかと思うと、選挙結果とは別のこととして、大きな懸念を覚える。台湾から向こう岸を見ると、釣り針に「経済」という餌をつけて、無数の釣竿が台湾海峡に糸を垂らしている光景を遠望できる。要注意である。