【紀元曙光】2020年7月9日

日本は、川のある風景が美しい。
▼とても水質が良いとは言えない東京の川も、都民にとっては欠かすことのできない存在である。もちろん今の東京は、水運や農業用水に使う河川を必要とはしていない。ただ、やはり「ゆるやかに流れる水」が目に映らないと、人は、心情としての渇きを覚えるらしい。
▼映画の「寅さん」には、柴又帝釈天とともに江戸川の風景が不可欠だった。大相撲の国技館も、蔵前にあった時代も含めて、隅田川を離れなかった。懐かしい昔話だが、プロ野球黄金時代の巨人の練習場は、あの多摩川グラウンドだった。
▼読者諸氏は、いかがだろうか。例えば、電車に乗って、東京の都心から千葉や埼玉など郊外のほうへ少し移動したとする。小欄の筆者は、電車が川にかかった鉄橋を渡る数秒間、窓から川面をながめるのが、子どもの頃から変わらず、たまらなく好きなのだ。
▼7日から九州地方を襲った豪雨による河川の氾濫。被害状況は、極めて甚大であることが連日明らかになっている。どこから流されて来たか、民家の前で曲芸のように逆立ちする乗用車。言い方が適切でないかもしれないが、海から離れた内陸の町を、巨大津波が襲ったかと思われた。
▼あまりに無情な茶色の泥土が、住民の生活を埋没させている。コロナ禍で3か月休業した店を、やっと再開させたばかりというのに、商品も冷蔵庫も泥まみれになった。いま中国各地で起きている水害は、実はもっとひどいのだが、もちろん中国の官製メディアは「良い場面」しか伝えない。被災した全ての方々を、小欄は思う。お身体を、お大切に。