古代中国の物語

裁判官のはなし

の時代、黄という高官のもとに、袁州から2人の友人が訪ねてきた。話をしているうちに、2人は黃に袁州へ一緒に行こうと誘った。黄は固く断ったが、友人たちが強く勧めてくるので、仕方なく一緒に行くことにした。

袁州に到着したが、黃は城内に入るのを嫌がった。しかしそんなことはかまわずに友人たちは黃を引っ張って城内に入った。そのとたん、黄は激しい腹痛に襲われ、それから一晩中苦しんだ。友人たちはいぶかしげに聞いた。「一体、君はどうしたというんだ? 昨日は袁州に誘ってもなかなか来ようとしなかったし、今は病に苦しんでいる」

すると黄は、自分はもうすぐ死ぬのだ、と力なく答えた。彼は友人たちに妻と母親を呼び寄せるよう頼むと、今にも死にそうな声で三年前の話をしはじめた。それは黄が袁州の裁判官だったころの話だった。

ある武官が、親しい郡守から森に行った3人の猟師の行方が分からなくなっているので捜索してほしいと依頼された。武官は、きっとその3人は盗賊に襲われたに違いないと思い、必ず賊を捕まえてみせますと郡守に意気込んで言った。

2か月ほど山を捜索したが、一向に見つからなかった。武官はがっかりして肩を落とした。どうしたものかと思い悩んでいると、目の前に4人の農夫が畑で働いているのが見える。武官は農夫たちに近づいて、「裁判で、自分たちが猟師を殺したと、嘘の証言をしてくれないか。人殺しは通常なら死罪だが、もしこの話に乗れば、少しのムチ打ちと牢屋暮らしで釈放だ。礼はたんまり用意している」と言い、沢山のお金を農夫たちの前に置いた。

農夫たちは承諾し、3人の猟師を殺した犯人として出頭した。裁判官は黃だった。判事たちが彼らを尋問した後、黄は彼らに死刑を言い渡した。しかし黃にはどうしても腑に落ちないところがあった。農夫たちがどうしても盗賊に見えなかったからである。黃は農夫たちを問い詰めた。そして真相を知った黃は彼らを釈放することに決めた。

驚いた武官は群守に、黄が賄賂を受け取り農夫たちを釈放したと訴えた。武官の話を聞き、群守は黃と10日間、農夫を死刑にするか釈放するか言い争ったが結論はでなかった。

死刑の日が近づいた。黄が書類へ署名しなければ自分の立場が問われると思い、群守は他の官吏たちに黄を説得するように促した。

官吏たちは黃に「あの4人の農夫らは、もう死刑になることが決まっている。群守がそれを決めたことは誰もが知っているのだから、君は心配する必要はない」などと言ってきた。黄はやむにやまれず書類に署名し、とうとう農夫たちは死刑になってしまった。

二日後、この件に関わった4人の官僚が突然亡くなった。数日後、武官は雷に打たれて亡くなった。群守も、まもなく原因不明の病に倒れて亡くなった。

その頃、黄の夢の中に農夫が現れた。「私たちは、濡れ衣を着せられて、殺されました。天の裁判官は、あなたの命を取るべきだと言っています。なぜならば、あなたの署名がなければ死刑は執行されなかったからです。しかし、私たちは天の裁判官にあなただけは許してもらうよう、懇願しました。そこで、あなたは3年間の猶予をもらうことになりました」

黄は、ちょうど今がその三年後なのだと友人に告げた。その後、黄の母親と妻が到着した。黄は彼女たちに挨拶をするとすぐに亡くなったという。

(翻訳編集・郭丹丹)