≪医山夜話≫ (47)

生命

彼はすでにこの世を去りましたが、彼の顔、声、彼と交わした会話は、よく私の記憶の中に蘇ります。

彼が私の診療所を訪れた時は、すでに手遅れでした。彼はガン細胞が全身に転移し、病院からは余命2~4週間と宣告されていました。

私の治療で、彼は6ヶ月ほど生き延びることができ、彼の保険会社も驚いていました。その期間中、私たちはいろいろなことを話し合いました。

下記は、彼が話してくれた内容です。

「私はボーイング社を退職し、航空機のリース会社を興しました。会社は最初の1機、2機から48機にまで業績が伸び、世界各地の商用、旅客用の航空会社にリースするまでに成長しました。私が稼いだお金は、コンピューターを使わないと計算しきれないほどの額です。しかし、私の生活は大変でした。感謝祭、クリスマスの大半は飛行機の中でした。家族の誕生パーティーには一度も出席できなくなり、巨額の小切手一枚を送ることしかできませんでした。今、私が病気になったことを知っても、子供たちはまるで隣人や同僚の不幸を聞いたかのように、多少の同情はしますが悲しんだりはしません。まるで自分とは関係がないかのようです」

「時には、街をさまよう乞食をうらやましく思ったりもします。彼らには健康な体があり、病気に苦しめられることがなく、楽しく生きています。彼らの方が本当に幸せなのではないでしょうか」

「先生、患者の苦痛を解消し、知恵と情熱に満ちた職業を持つあなたがうらやましい。一方、私はどうでしょう。私の財産は運命の女神からの『ひやかし』みたいなものです。私は道化者のように、人生の舞台で思いきり演じましたが、観衆からは拍手の一つももらえません。家族を幸せにしたと私は思い込んでいましたが、家族は幸せを感じていません。息子の誕生日の願い事は、お父さんが早く家に帰ってくることでした。家族が必要としているのは私であり、小切手ではありません。それを聞いた私は、本当に愚かだと思いました。妻が病気にかかった時も、私は海外に出張していました…」

「今では、私を必要とする人もいません。私はお金を稼ぎましたが、家族を遠いところに追いやり、二度と呼び戻すことができません。今、私は彼らを必要としていますが、彼らも同じやり方で返してきます。彼らも、小切手を送ってくるのです。しかし、それもまた私の金、私が以前稼いだ金です……」

彼はこの世を去りました。いたたまれないたくさんの思い、彼が欠けた家庭、そして人に考えさせるストーリーを残しました。

人間は、生命の終点を迎える前に、大きな過ちを犯す前に、不治の病に冒される前に、早めに救いを求めることが大切です。さもないと、手遅れで救いようがなくなってしまうのです。

(翻訳編集・陳櫻華)